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アヤメに似たなかまとアヤメとの雑種
ヒオウギアヤメとシガアヤメ

アヤメ科
Iris setosa
Iris
× setosothunbergii
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 ヒオウギアヤメは北海道と本州中部地方以北の山に生える多年草。パッと見にはアヤメによく似ているが、乾燥地に生えるアヤメと違い湿地や湿原を好み、よく観察すると花の形態にも違いがある。わかりやすいのは、花の中心から上に向けてのびる内花被片と呼ばれる花びら。アヤメはこれが大きく目立つが、ヒオウギアヤメには一見したところないように見える。だが正確にいえばあることはある。ごく小さいので目につきにくいだけだ。

 ところで長野県山ノ内町の志賀高原は私の好きなフイールドのひとつ。手軽に自然に親しむには最適な遊歩道も多く、池、湿原、山があり、魅力的なエリアだ。この志賀高原の名前が付けられた植物として昭和6年(1931)にここで発見されたシガアヤメがある。シガアヤメは、ヒオウギアヤメとアヤメの雑種で、両種の中間的な形態をもつ。先に説明した内花被片がアヤメとヒオウギアヤメの中間の大きさなので、素人見にも区別できる。『長野県植物誌』によるとシガアヤメは長野県固有種とされており、分布しているのは志賀高原のみのようだ。私が知る限り高原内には2ケ所の自生地があり、よく知られている湿原のほかにもう1ケ所ある。そこは道路のすぐそばで、よくこんなところに、と思うような場所だ。志賀高原全体の数も少なく、『長野県レッドデータブック維管束植物編』では希少雑種にランク付けされている。確かにこうした自生地の状況を見るにつけ、種としての存続に危うさを感じる。

関連情報→本サイト植物記「ノハナショウブ」「カキツバタ」「アヤメ



紫色の帯を作るヒオウギアヤメ。長野県木島平村・南ドブ湿原。



ヒオウギアヤメの花。北アルプス・栂池自然園


志賀高原に自生するシガアヤメ(左)とアヤメ(中)とともに3種の内花被片を比較すると、その大きさの違いがよくわかる。ほとんど目立たないヒオウギアヤメに対して大きく目立つアヤメ。そしてその中間的な大きさのシガアヤメ。 ヒオウギアヤメの内花被片は、ごく小さいので、よく見ないと気づかない。右写真赤矢印が、ヒオウギアヤメの内花被片だ。アヤメに比べれば、本当に小さな小片であることがわかる。



ヒオウギアヤメの白花。福島県南会津町・駒止湿原。


  
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