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「いずれ菖蒲か杜若」というが…
カキツバタ
アヤメ科
Iris laevigata
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 アヤメ科アヤメ属の多年草。北海道〜九州に分布し、水湿地に生える。その昔、花の汁で衣を染めたことから「書き付け花」と呼んだことが名前の由来らしい。また「杜若」という漢字を当てるが、これは誤用。しかし今ではそれが一般化した。
 花茎は高さ30〜90センチで、6月に濃紫色の花を2〜3個咲かせる。外花被片の基部中央には白い斑紋があるのが特徴。内花被片は長さ6cm前後で直立。葉は、長さ30〜60センチ、幅2〜3センチの剣形で、アヤメやノハナショウブと比べても長いため先端は垂れていることが多い。中央脈はあまり目立たず、平行な葉脈が何本も見える。果実は刮ハ。

 ところで、どちらも優れて選択に迷うことを「いずれ菖蒲か杜若」というが、これにノハナショウブを加えた3種は、いずれも美しく、確かにどれかひとつを選ぶとなると迷いそうだ。しかし、実際は生育地や花の形態に微妙な違いがある。3種とも浅い水の中から生えているイメージがあるが、本当にそんな場所を好むのは実はカキツバタだけ。アヤメは乾燥地の方を好むし、ノハナショウブはその中間的な場所に多い。またカキツバタの大きく垂れ下がった外花被片には白いすじが入っているが、ノハナショウブではこれが黄色く、またアヤメでは黄色地に紫色の網目模様となる。この違いを覚えておけば区別は容易だが、それでもこのなかまは古くから混乱が続いている。
 昔はサトイモ科のショウブを「菖蒲草」と呼び、アヤメ科のアヤメの方を「菖蒲花」と書いて「はなあやめ」と読んで区別していた。しかし、この「菖蒲」とは本来、同じサトイモ科のセキショウの漢名で、ショウブの葉がセキショウに似ていたので、ショウブにこの漢名が当てられ、さらに葉が似て花を咲かせることからアヤメ科の「花菖蒲」にまで用いられた。こうした紛らわしい経緯に加え、今ではカキツバタやハナショウブもひっくるめてアヤメと呼ぶこともあって、余計混乱が生じている。
 とはいえ、これらの中でもカキツバタは美しい群落を作ることが多い。まさに水辺を彩る花といえる。ややこしい経緯はとりあえず忘れて、カキツバタの美を堪能しようではないか。

関連情報→本サイト植物記「ヒオウギアヤメとシガアヤメ」「ノハナショウブ」「アヤメ



滋賀県高島市・箱館山の平池を彩るカキツバタ群生。



尾瀬ヶ原・下田代の池塘に生えるカキツバタ。まさに水湿地に似合う花である。


外花被片の基部に入る白いすじ。長野県白馬村・親海湿原にて(左)。カキツパタの果実。岩手県巌美町にて(右)。


カキツバタ・花の奇形2例。花被片が4枚のもの。群馬県片品村・尾瀬ヶ原(左)。花被片が6枚のもの。長野県白馬村・親海湿原(右)。



名前の由来「書き付け花」が正しいかどうか検証してみた。白い布に花をつぶして押しつけると、確かにくすんだ紫色に染まった。ただ、今時の酵素パワーの洗剤で洗濯すれば、いとも簡単に洗い落としてしまいそうだが…。



  
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