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光沢のある葉を鏡に見立てた
イワカガミ

イワウメ科

Schizocodon soldanelloides

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 初夏、山で出会う常連の花のひとつ。イワウメ科イワカガミ属の多年草で、北海道〜九州の山地の岩場や草地などに生える。名前は岩場に生えることと光沢のある葉を鏡にたとえてつけられたもの。高さは10〜20cm。葉は長さ幅ともに3〜6cm。常緑で、冬でも寒さに耐えて茂っているのをよく見かける。

 花は鮮やかな紅紫色で、しかも花弁の縁は細かく裂けていて、なかなかおしゃれである。うつむきかげんの花をそっと持ち上げて中を覗いてみると、白い円盤状の葯が目立つ。葯は花粉を作る場所だが、カタクリやユリの葯のように花粉が外側に付着するしくみにはなっておらず、この円盤の中に蓄えられている。ちょうどフタの付いた皿のような構造になっていて、来訪した昆虫が蜜を吸おうと口を伸ばすと、円盤に触れてフタが開き、花粉が昆虫の体に付着するしくみになっている。人間の視点から見ると、花粉をそんなに後生大事に扱わなくても…と思ってしまうが、彼らにすれば、新しいなかまを増やすために貴重なエネルギーを費やして作った大切な花粉。本当に託したい昆虫だけに効率よく付着させる方法を選択したのだろう。こうして昆虫の力を借りて受粉を終えると、花冠が脱落して赤い萼の中から成熟した花柱が突き出した形の刮ハとなる。

 本州日本海側の積雪地に生えるものはオオイワカガミ(var. magnus )と呼ばれ、葉は長さ幅ともに8〜12cmと格段に大きい。また亜高山帯〜高山帯にはやや小型のコイワカガミ(f. alpinus )が分布する。オオイワカガミは分布域と大きな葉で区別できるが、コイワカガミとの区別は難しい。イワカガミはどちらかというと針葉樹林下に多いが、コイワカガミは高山帯の雪田周辺や岩場、ハイマツ林の林縁などに見られる違いがある。コイワカガミの分布域を本州中部地方の高山帯とし、北海道と東北地方の高山帯に分布するものは含めない見解や両者を区別しない見解もある。なお、イワカガミ属のなかまとして、ほかに南アルプス南部などの限られた場所に見られるヤマイワカガミ(S. intercedens )、東北地方〜紀伊半島と九州のヒメイワカガミ(S. ilicifolius )、関東地方南部〜中部地方に分布し、ヒメイワカガミの赤花品種であるアカバナヒメイワカガミ(f. purpureiflorus )もある。

関連情報→本サイト植物記「ヤマイワカガミ」「アカバナヒメイワカガミ」「ヒメイワカガミ


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長野県と群馬県の県境付近の岩場で見かけたイワカガミ群生。奥に見える白い花はヒメイワカガミ。混生していることから、ひょっとすると両種の雑種の可能性も? 葉は円形と卵形があり、鋸歯の数もどちらかというとヒメイワカガミに近くて迷った。とりあえずイワカガミとしておくが、違う可能性もあり得る。



湿原を覆うイワカガミ。湿った環境を好むわけではないが、ここ秋田県・須川高原にある大仁郷湿原では、その一角がピンク色に染まるほどにイワカガミが多かった。


イワカガミ。秋田県・森吉山にて(左)。花のアップ。中心に5個並ぶ円盤が葯だ。谷川連峰・平標山(右)


品種のコイワカガミ。ここでは鋸歯の数などから、とりあえずコイワカガミとしておいたが、本種との区別は難しく、区別しない見解もあるので、ご注意のほど。新潟県・浅草岳(左)。オオイワカガミ。新潟県・大厳寺高原(中)。オオイワカガミの果実。滋賀県マキノ町・赤坂山(右)


 
  
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