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鳴き声がどこかもの悲しい
ヒグラシ
Tanna japonensis
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  セミ科ヒグラシ属のセミ。ほかのセミの鳴き声が、騒々しく聞こえるのに対して、本種の鳴き声は「カナカナカナ…」と、どこかもの悲しく聞こえ、風情がいい。加えて鳴くのが朝夕ということもあってか、涼しげな印象もある。しかし、間近に聞くと、結構な音量で、決してもの悲しくないし、涼しげでもない。

 漢字では「蜩」が主に使われ、漢字一文字で特定昆虫1種を指すのも珍しいのではないかと思っていたが、今回、本項記事を書くにあたって、手元にある『漢和大字典』(学習研究社・1988)で調べると、意味として最初に書かれているのが「セミの総称」で、二番目に「初秋に鳴く小形のセミ。ひぐらし」とあった。
 この解説文の筆者は、文学部の先生だろうと思うので、俳句の世界では秋の季語にもなっているヒグラシを「初秋に鳴く」としたのだろうけど、実際の出現期間は地域にもよるが7月上旬〜9月上旬頃であり、完全に夏のセミである。

 広島市にある我が家の場合。過去の日記(本サイトの「日記」ではなく。別に個人用に付けているもの)で記録していた近年の初鳴きを調べると、2016年…7月7日、2018年…7月1日、2020年…7月14日、今年(2021年)…7月3日という結果だった。意外にも年により2週間もの開きがある。

 また鳴く時間帯は、夜明け前の4〜5時頃と日没前後の18〜19時頃の各30分間が多いように思うが、私は深夜や午前10時頃に鳴き声を聞いたこともある。その午前10時に聞いた時は、快晴だったが、我が家の庭に立つブナの、日陰側にとまって、普段とは少し違う、ちょっと鳴いてやめ、またちょっと鳴いてやめるような鳴き方をしていた。

 『改訂版 日本産セミ科図鑑』(誠文堂新光社・2015)によると、鳴く前にしばしば「クークー」と弱く発音し、6〜10秒程度の鳴き声を数回繰り返すとある。また奄美大島産の個体は、最初の一音を長くのばす特徴があるという。

 ちなみに私が昆虫採集に夢中だった子どもの頃。実家やその周囲で見られたのは、ニイニイゼミ、アブラゼミ、ツクツクボウシの3種のみだった。その後、クマゼミとともにヒグラシも生息するようになったが、しばらくの間は、少し離れた林から聞こえてくるばかりで、近くから鳴き声がしたことはなかった。ところが昨年からは近くからも聞こえるようになり、今年は庭の木でも頻繁に鳴くようになった。数が増えていることは間違いないようである。

 そのため、ずっと長い間、「声はすれど姿は見えず」の状態が続いており、しかもその声も朝夕だけなので、余計にその姿をカメラに収めることは難しかったが、今夏は頻繁に遭遇する機会に恵まれた。夜、網戸に飛んできたかと思えば、昨日の夕方には、まだ日が高い時間帯に飛んできて、目の前にあった菜園の柵にとまった。これは絶好のチャンスとばかりに手で捕獲して、木にそっととまらせて撮影。なかなか撮れなかったヒグラシをようやく激写することに成功した。


関連情報→本サイト動物記「セミ」「エゾハルゼミ」「クマゼミ




前翅の付け根などに見られる青っぽい緑色が、意外にも茶色系の体色にうまく溶け込んでいる。



上の写真と同個体の♂。オスは、メスよりも腹部が長い。



 
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