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山の神 長野県松本市・島々谷

撮影年月日:2005年10月21日

 日本では、山々は山の神が支配しているとし、それを敬う民間信仰が古くからある。山を歩くと、確かに山の神を祀る祠をよく見る。山の頂きばかりではない。渓谷沿いにあったり、山道沿いにあったり一定しない。ほとんどは、素朴な鳥居に小さな石の祠があるばかりだ。山の神は女性が多いといい、妻の俗称にもなっているのは、そんな理由からだろう。その昔、山に女性が入ることを忌み嫌ったのも山の神が女性に嫉妬するからだという。
 ちなみに日本一の山・富士山の神は、日本神話に登場する木花乃開耶姫(このはなのさくやひめ)。姉の磐長姫(いわながひめ)が醜かったのに対して、妹の方は美女だったという。美女といっても、その基準は国によって時代によって変わるもの。現代の基準では、ひょっとすると姉の方が美人の要件を満たしているかもしれない。ただサクラの語源は、木花乃開耶姫とする説もあり、私は日本神話に登場する神々の名前の中でも特に美しい響きを感じる。もし実在した人物だとしたら、タイムマシンにでも乗って一度会ってみたいものだ。

 ところで、私は山の神の祠を見かけたら必ず手を合わせていくことにしている。山の神を信仰しているわけでもないが、やはり私も山を仕事の場とする者。いくら科学の世だからといっても天気予報と最新の撮影機材や登山用具だけでは不十分。いい条件で取材できるように最大限の努力はしても、最後の30パーセントは運だのみ。その運を引き寄せるには山の神にも念のためお願いしておこうというわけだ。ま、要は気持ちの問題なのだが、ただ、これまでのことを振り返ると、そのせいかどうかはともかく結果的にはどうも運がいい。まったく期待もしていなかった山で見事な花の群生に偶然出会うことも結構多いし、比較的天気には恵まれる。登山路で山の神が祀られていたら今日一日いい取材ができることを祈願するし、下山路にあれば無事に取材できたことに礼をいう。どちらかというと山麓の立派な神社には素っ気ないが、山中の祠には必ず手を合わせることにしている。

関連情報→本サイト山岳記「信仰の山1」「信仰の山2




島々谷に鎮座する山の神。金精様と一緒に祀られていた。



福島県・七ッ岳山麓で見かけた山の神。「山神」と彫られた石と鳥居が、林道沿いにひっそりとあった。

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三重県大紀町・七洞岳登山口に祀られていた山の神。

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山形県小国町・飯豊連峰 飯豊山荘前にあった山の神。






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