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異様な容姿をした腐生ラン
ツチアケビ

ラン科
Cyrtosia septentrionalis
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 山地の林内などに生える腐生植物。北海道〜九州に分布。腐生植物なので葉はなく、全体が黄褐色をし、時に高さ1mに達するので非常に目立つ。
 6〜7月に直径3センチほどの花を総状に多数付け、唇弁は黄色で内側に毛状突起に覆われ、萼片外側には微毛が密生する。

 秋になると全体が紅色に変わり、長さ6〜10センチの紅色でバナナ状の果実が垂れ下がる。名前は、この果実をアケビの実に見立て(似ているのは色だけで形は似ていないが)、土から直接生えたアケビの意。結実率が高いことで知られ、これはポリネーターが介在しなくても自家受粉(自分の花粉が自分の柱頭に付いて受粉する)で結実できるためである。果実は野鳥が餌としてついばみ、野鳥の糞によって種子が散布されるようだ。

 とにかく実物を見ると異様である。こう見えてもツチアケビ属に属するラン科植物というのも意外かもしれない。葉緑素を持たないため担子菌類のナラタケとラン型菌根を形成し、栄養的には完全に菌根菌に依存する菌類従属栄養性を示す。つまり栄養に関しては、菌根菌との共生というよりも寄生である。菌根菌は、本種の皮層細胞内に入り込み、菌糸コイルを作るが、やがて分解吸収されてしまうという。

 先日(2017年7月)、群馬県富岡市と下仁田町にまたがる妙義山に登った際、登山口で、どの機材を持っていくか迷った。三脚と望遠ズームレンズはやはり重いので、本当は持って行きたくない。しかし、妙義山は岩山なので、その岩壁に着生する植物を撮影するには、どちらもあった方がいい。結局、持って行くことにした。
 上空は今にも雨が降り出しそうな厚い雲に覆われ、林内は夕方のように薄暗い。登山道は無風で、荷物が重いこともあって余計に汗が出てTシャツはすぐにぐっしょり濡れた。

 しばらく登って、ふと見上げると異様な姿で林立するツチアケビが目に入った。おーっ、来た甲斐があったというものだ。ツチアケビに迎えられるとは、さすがに予想もしなかった。早速、手持ちでカメラを向けると、薄暗い場所だけにシャッタースピードはかなりの低速度。そこで急斜面にやや無理して三脚をセット。完全にブレないようにした上で、ISO800・f11・1/5秒でタイマー連写。重たかったけど三脚を持って来たのは大正解だった。三脚がなければ、こうは撮れなかっただろう。ちなみに望遠ズームレンズも、こののち岩壁の植物の撮影で役立ち、こちらも持参して正解だった。

関連情報→本サイト植物記「寄生植物」・「いろいろな果実」(本種・果実の写真はこちらに掲載)



妙義山登山道で見かけた立派なツチアケビ。蕾や開花間近な花、開花中の花、それに受粉がすんで、すでにバナナ状の果実になりかけた状態のものまで混在している。



ツチアケビの花。唇弁は明るい黄色で、内側には毛状突起に覆われている。



  
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