これまで聞いた話や読んだ話の中から、特に不思議に感じる話、怖い話を選び出してみた。


山
譚
Nature
岳
奇
私が体験した話
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山の怪異譚・その傾向


 山を舞台にした怪異譚をいろいろ読んでみると、本当の原因が何であるかはともかく、次のようなパターンがあるように思う。簡単にまとめてみた。


◆霊そのものを目撃する…
 見ただけでそれとわかる場合。私の大学時代の同級生は、まだ薄暗い早朝の山で、登山道を見下ろす高い崖の上に若い女性が立っているのを目撃したという。そんな時間帯・場所に若い女性がひとりでいるはずはないから、それが何であるか説明はいらないだろう。彼は霊感があり、これ以外にも山でいろいろなものを見たそうだ。
 だが見てすぐにわかるとは限らない。登山家としても有名な医師の今井通子氏は、以前ある雑誌にこんな体験を書かれていた。昼間、なかま3人と穂高岳に登った時のこと。すれ違った2人連れの登山者に「こんにちわ」と声をかけたところ、彼らも笑顔で「こんにちわ」と返したという。だが、自分のすぐ後に続いていた2人は挨拶せず、一番後を歩いていた同行者だけが挨拶した。すると中の2人が「先生と○○君、何ふざけあってるんですか。声を掛け合ったりして」と聞く。すれ違った登山者に挨拶しただけと説明したが、誰も通らなかったと納得しなかったそうだ。すぐに全員で振り返ったが、なぜか遠のいて行く人の姿はなかった。しかも最後尾の同行者が見た登山者の髪型や服装などの描写は、自分のそれと見事に一致していたという。


◆足音がする…
 深夜、テントで寝ていると近づいてくる足音がするとか、まわりを回る足音がするなど。夜の登山道を下っていると少し後から足音がついて来て、自分が止まると足音も止まった、という話もあった。私自身、晩秋の北八ヶ岳で正体不明の足音を聞いているし(本項山岳奇譚「北八ヶ岳・双子池の足音」参考)、似た体験は本や雑誌でも読んだことがあり、この手の体験は山の怪異譚としてはよくあるパターンのようだ。
 寝ていて聞いた場合は自分の呼吸によって衣類やシュラフがこすれて規則音となり、それがまるで足音のように聞こえた可能性もあり得る。私も足音かと思ったら実はシュラフのこすれ音だったことを何度か経験している。ただ双子池の場合は、その可能性も考えて起き上がり外を覗いてみたりしたが、やはり音は聞こえ続けていた。また足音ではないが、避難小屋のまわりをパキン、ポキンと枝が折れる音が何度も回ったという話を聞いたこともある。


◆姿は見えないが…
 絶対に誰もいないはずの場所から声が聞こえてくるとか、あるいは姿は見えないのに腕を何者かにつかまれた、背後から肩を叩かれたなどの話もある。例えばシーズンオフとなり登山者が一人もいなくなったある日の夕方、山小屋から外に出たところ突然背後から「ちょっと」という女性の声に呼び止められた。振り返ったが誰もいなかったという話を、ある山小屋経営者が自著の中で書いておられる。
 また過去には日光白根山の避難小屋にひとりで泊まったところドカンという音や何かを引きずるような音を聞いた話(山と渓谷1986年5月号)などもあった。ほかに深夜、何者かにテントのポールを揺さぶられたとか、声も姿も見えないが異様な気配だけ感じられたなどの話も。


◆怪光を目撃する…
 いわゆる「火の玉」のような怪光を目撃したというもので、夜、登山道もない尾根を青くゆらめく光が移動していたとか、下方の登山道を登ってくる光を目撃し後続の登山者かと思ったところ、人間には不可能なスピードであっという間に距離を縮めたなんて話も。また某女子大学山岳部が日光・女峰山で怪光を目撃した例(山と渓谷1985年4月号)や乗鞍高原で怪光に遭遇した例(山と渓谷1986年5月号)などの体験談が雑誌や本に載ったこともある。


◆場違いなものに遭遇する…
 本項山岳奇譚「六甲山のハイヒール」のように場違いなものが山に落ちていた、あるいは置いてあったという例。例えば山と渓谷1991年8月号には、人が来ることもない鈴鹿山系の深い渓谷の岩の上に赤い鼻緒のついた女物の下駄が両方きちんと揃えて置かれているのを見たという話が載っていた。場違いなものというのは、その落差が大きければ大きいほど恐怖を感じる。たとえそのもの自体は怖くなくてもだ。
 もちろんそれはモノだけとは限らない。人でもそうだ。山で登山者に出会うのは当たり前で怖くはない。だが深山の夕暮れ時、たったひとりでいる老婆や小さな子供に遭遇すると、ある意味怖い。それは間近で出会うよりも、少し離れた岩場や森の中で後ろ向きの姿で目撃するようなシチュエーションだと、やはりぞっとする。こうした場違いな年齢層の人に遭遇したという体験談は聞いたことはないが…。


◆場違いではないが状況によっては…
 例えば荷物だけが長い間、置きっぱなしになっているような例。過去には北八ヶ岳・亀甲池畔に放置されたザック(岳人1987年1月号)や西吾妻山・西吾妻小屋に前年から置き去りにされていたザック(山と渓谷1991年10月号)を見つけたという話もあった。何らかの事情でやむを得ず荷物を置いて下山したのか、あるいはケガをして自分はヘリなどに救助されたが、荷物の回収はできなかったということなのか。それとも荷物を置いたまま水を汲みに行ったり写真を撮りに行って、何らかの戻れない事態に陥ってしまったということなのだろうか。
 そういえば、友人と2人で避難小屋に一泊して朝起きてみると連れの友人が荷物を残して忽然と姿を消していた、なんて話を聞いたこともある。


◆写真に何かが写り込む…
 いわゆる心霊写真のように正体不明の何かが写り込んでしまったというもの。テレビなどで紹介される心霊写真の中には、明らかにレンズゴーストを勘違いしている例もあるが、私自身、山で撮影した写真の中に「あれっ、これ何だろう」と不思議に感じたカットは過去に数枚ほどある。そのすべてが心霊写真というつもりもないのだが、撮影時の状況を何度思い出しても、そんなものあったかな?と納得いかないのだ。もちろん実際に何かがあったのに見落としていたり、あるいは忘れてしまった可能性もあり得るわけだが。さほど恐怖を感じるものではないが、本項「私が体験した話」の「写真に写り込んだ不思議なモノ」で紹介してあるので、ご覧頂きたい。
 
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