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刺されると滅茶苦茶痛い
トビズムカデ
Scolopendra subspinipes
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 ムカデというのは、「百足」と書くように多数の脚(歩肢)があって、とにかく見た目が気持ち悪い。しかも神経毒をもち、運悪く大顎(顎肢)で噛みつかれると激痛が走る。そのため人間様からは徹底的に嫌われている。
 山では、細長いジムカデのなかまを見かけることも稀にあるが、最も一般的なムカデといえば、黒い胴体に赤褐色の頭部、黄色い脚が特徴的なトビズムカデ(体色には変異があるらしい)。オオムカデ科オオムカデ属に属する節足動物で、人里周辺の山林などに生息し、先日も実家の菜園で見かけた。大きさとしては中くらいの個体だったが、アリの攻撃を受けて死にかけていた。これは絶好のチャンスというわけで、ピンセットで拾い上げ、アリを振り払って、じっくり観察させてもらった。これまでムカデがどんな顔をしているのか、毒腺がある大顎はどうなっているのか、とにかく何も知らなかったのだが、観察してようやく身体の造りが判明した。詳しくは以下の写真をご覧頂くのが手っ取り早いだろう。

 一時的にワサワサと動くこともあったが、それ以外はまったくおとなしいトビズムカデを自由に撮影させてもらったあと、処置に困った。刺すかもしれないムカデを無罪放免にするわけにはいかないのはいうまでもない。そもそもアリの攻撃で半死状態なのだから、食物連鎖の流れに戻すのが一番だろうというわけで、先ほど拾った場所に置いてみた。すると1分もたたないうちにアリが嗅ぎつけてやってきて、あっという間にムカデのまわりを取り囲んだ。アリの数はどんどん増し、そしてゆっくりとムカデを運び始めた。途中の段差をものともせず、自分たちの体重の何倍もあろうかという巨大な獲物を運んで行く。
 1mくらいの距離だったので、かかった時間は10〜15分程度だったように思うが、ムカデを半分巣に入れたあと、動きが止まったように見えた。だが、しばらくして見てみると、なんとムカデの身体から脚がきれいさっぱり切り取られていた。あまりに大きな獲物だったので分解して運び入れたようだ。そして翌日には、残っていた胴体も完全に巣の中に消えていた。

 ムカデは毒腺と大顎という武器をもち、確かに比較的大きな昆虫などを捕まえる時には有効だろうが、集団で襲ってくるアリには対処のしようがないということなのだろう。まさに世界一の巨砲を誇った戦艦大和が、多数のアメリカの戦闘機にあっさり沈められたのと同じことである。

関連情報→本サイト動物記「ジムカデの一種?




オオムカデ目の歩肢は、21対もしくは23対らしいが、この個体は19対しかないように見える。しかし顎肢に隠れる歩肢が1対あり、もし尾脚も歩肢に含めるならば計21対になり、奇形とはいえないことになる。尾脚を歩肢として数えるのか数えないのかわからないので、なんともいえないが。頭部のそばにあるのは顎肢、一番後にあるのは尾脚である。ちなみにムカデのなかまの歩肢は、すべて奇数対で、偶数対は奇形だそうだ。



上下の写真とは別個体。広島市。



トビズムカデの頭部。単眼は4対、数珠状に連なる太い触覚、歩肢よりもはるかに太くて逞しい顎肢、そして半光沢がある体表面…確かに気持ち悪いが、その身体の機能的な造りには、やっぱり感心してしまう。



裏返して口器周辺を拡大してみた。鎌のように湾曲した刺が顎肢。先端から毒が注入される



アリによって巣に運び込まれたトビズムカデ。トビズムカデはアリに捕食されることもある。一方で、下の写真のようにトビズムカデは、ほかの生物を補食している。

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クロシタシャチホコ(シャチホコガ科の蛾)を捕食するトビズムカデ。蛾の開いた腹部から見えている黄色い球体は、どう見ても卵だろう。栄養価の高い卵は、ムカデにとって絶好のごちそうというわけか。それにしてもムカデは「蛾の腹がふくれている=卵を持っている」ことをわかった上で襲ったのだろうか。真っ先に腹に喰らいついているところを見ると、その可能性もあるかもしれない。




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