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山のトイレ 福島県檜枝岐村・尾瀬沼ほか

撮影年月日:2007年8月15日など

 山のトイレ問題というのは、昔から関係者を悩ませてきた。かつて環境に対する認識が低かったころは、北アルプスの山小屋などでも、目に付きにくい直下の沢にそのまま汚物を垂れ流すことが普通に行われていた。そんな事情を知らない登山者が、山小屋の従業員に「あの沢にはたくさんの白い花が咲いているが、あれは何の花か」とトイレットペーパーまみれの沢を指して尋ねたなんてこともあったとか。

 1980年代に聞いた話だが、シーズンオフに沢に貯まった汚物を従業員全員で天日干しした上で燃やして処理していた山小屋もあったそうだ。特に高山では気温も低いため分解も進まず、さらには水源が大腸菌に汚染されるし、登山者の増加もあって山のトイレ問題は無視できない大きな問題と認識されるようになった。行政によって山岳地に公衆トイレが次々に新しく建設され、かつては登山口に普通に見られた汲み取り式トイレ(いわゆるポットン便所)も、水洗もしくは簡易水洗式のトイレに建て替えられている。さらには近年は微生物によって分解処理し、水洗の水を循環利用するバイオトイレも作られるようになり、環境負荷を減らす対策も少しずつながらも進んでいるが、バイオトイレの建設費は億単位になることもあるらしいから、どこの山にも整備するのは簡単ではないのだろう。
 そのためトイレのない山では、キジ打ち(野グソすること)が依然、問題として存在し、特に百名山のような人気山岳地のトイレのない避難小屋周辺では、そんなキジ打ちが環境問題にもなっている。そこで最近は携帯トイレも考案され、その利用を呼びかけている山もある。携帯トイレというのは、紙おむつと同じ高分子吸収体が入った袋の中に用を足すというもの。それを持ち帰って燃えるゴミとして捨てるか、あるいは山麓に設置された回収箱に捨てるわけだ。自分の排泄物をザックに入れて持ち帰るのは、やはりかなり抵抗があるが、しかし、それをしなければ環境が成立しないところまで来ているようである。

 ところで、これまで私が利用したトイレの中で、最も快適と感じたのは、尾瀬御池の公衆トイレだろうか。中は新しく掃除も行き届き、ウォーム便座にウォッシュレットまで付いていた。公衆トイレのウォッシュレットを使う気はしないけど、山の公衆トイレとしては、かなりレベルの高い部類に入るのは間違いないだろう。一方、最悪のトイレは、今を溯ること二十数年前、南アルプス・某所にあったトイレ。そのトイレは山の斜面に簡単な小屋が建てられ、中に入ると真ん中だけ床板がなくて、そこに用を足すという至って素朴な造りだった。お尻には外からの風が吹き付けるし、穴の下に目をやれば、うず高く円錐形の山になっているし、ハエはブンブン耳元で騒ぐわで、実に不快であった。昔は、そんなトイレもあったんだから、それを思えば今は随分快適だな。

関連情報→本サイト山岳記「山の携帯トイレ」「山のチップ制トイレ




登山口にある典型的なトイレの例。飯豊連峰、福島県側にある川入登山口のトイレ(左)。最近は、洗浄装置付きのトイレも目にする機会が増えた。便器を汚した人が自分で洗えるように水洗とは別に洗浄用ノズル(上に引っかけてある白いのがそれ)付きの便器。苗場山・長野県秋山郷側にある三合目登山口のトイレにて(右)


管理が行き届き、きれいな尾瀬沼畔のチップ制トイレ(左)。チップ制トイレは、トイレの維持管理に費用がかかる山岳地などで、その費用の一部を1回100円程度のチップという形で利用者に協力を求めるもの。強制ではないが、ここはやはり協力したいところだ。そのチップ回収箱(右)


登山口では、このような工事現場でよく使われる簡易トイレも見かける。ちゃんとしたトイレを作る予算がない場合は、とりあえず山のトイレ問題をしのぐ手段としては、これも当然アリだろう。福島県・裏磐梯高原の雄子沢登山口にて(左)。長野県・飯綱山山頂近くに設置された携帯トイレブース。小屋の中に便座付きの折りたたみ椅子が置いてあり、これに携帯トイレをセットして利用する。ここには、携帯トイレまで常備され、「キジ打ちもお持ち帰りの時代です」と携帯トイレ利用を呼びかける紙が貼ってあった(右)


使用ずみ携帯トイレの回収ボックス。飯縄山山麓のもの(左)と立山・天狗平のもの(右)



戸隠山・一不動避難小屋周辺のキジ打ちによる環境汚染が深刻となり、避難小屋での宿泊を控えるように呼びかける張り紙。長野県・戸隠高原にて。


最近はめっきり減ったが、それでもトタン張りの簡易なトイレも稀に見かける。中はというと、床に穴が開いているだけのシンプルな作り。宮崎県日之影町・日隠山登山口。外観(左)とその内部(右)。



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