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山の気象観測施設 茨城県つくば市・筑波山

撮影年月日:2000年6月20日

 頻繁ではないが、山に行くと気象観測施設を見かけることがある。一番多いのはダムの水量管理のために設置された無人の雨量観測所(山岳記「雨量観測所」参照)だが、もっと規模の大きい気象観測施設もある。なぜ山に気象観測施設かというと、昔は気象衛星もないため、標高が高い山の上で観測することで上空の気象状況を把握し、予報精度を上げる必要があったから。なので明治以降、気象関係者は、欧米に習ってより高い山での気象観測を目指した。

 日本各地の山にある気象観測施設は、どこも歴史があり、現在では廃止された施設があるものの、かなり昔から上空の気象観測が重要であることを理解し、なんとか予報精度を高めようと努力した人たちが確実にいたことが垣間見える。例えば、1枚目に掲載した筑波山の気象観測所は、明治35(1902)年から観測を開始した日本初の山岳測候所だが、最初は国ではなく、ドイツで気象学を学んだ皇族の山階宮菊麿王(やましなのみや きくまろおう)が自己資金で建てた施設が元になっている。その後、気象庁の施設だった時期もあるが、現在は筑波山神社と筑波大学計算科学研究センターが共同で運用する施設に変わっているようだ。

 近年は、あまり「測候所」という名称を聞かなくなったが、測候所は気象観測のための気象庁の施設で各地に置かれ、かつては全国に100ヶ所以上もあった。しかし観測の自動化が進んで現在は2ヶ所に残るのみ。そんな数々の測候所の中でも富士山のそれは一般に広く知られているかもしれない。

 富士山の気象観測も最初は個人によって開始された。新田次郎の小説『芙蓉の人』で描かれた気象学者の野中到(のなか いたる)夫妻は、明治28(1895)年に自費で山頂に観測小屋を建て冬季も観測を続けた。さらに昭和11(1936)年には常設の測候所が国によって建設され、その後、伊勢湾台風の被害が大きかったことから、待望の気象レーダーが昭和39(1964)年に完成。これにより日本の国土の8割をカバーできるようになり、気象予報精度の向上に大きく寄与することになる。この建設はかつてNHKのプロジェクトXでも取り上げられたほど、困難を極めるものだったようだ。レーダードームの骨格を現地に運ぶ際はヘリコプターが使用されたが、重すぎて揚力不足だったので、ドアや座席を取り外し、燃料も必要最低限にして、なんとか運んだそうである。

 ところでレーダーを稼働させるにはかなりの電力が必要なはずだが、どうやって富士山山頂みたいなところで確保するのか、不思議に思うが、実はすでに戦中から御殿場口〜山頂間の地中にケーブルが埋設され、電力が供給されていたらしい。ちなみに各山小屋は、そのケーブルから供給を受けているわけではなく、燃料を運んで自家発電をして、まかなっているそうだ。

 富士山レーダーは、1999年まで使われたが、解体移設され、現在は富士吉田市立富士山レーダードーム館で見学できる。日本最高地点のレーダーを廃止して気象予報に支障が生じないのか心配になるが、気象衛星ひまわりの運用のほか、静岡の牧之原台地と長野の車山に新しいレーダー施設を建設することで十分、代替ができると判断されたそうだ。これらの場所であれば維持管理もしやすく、費用も安く済むためらしい。富士山測候所は2004年に廃止され、以降は無人の気象観測所として自動観測が続けられている。




筑波山・男体山山頂に建つ、日本初の山岳測候所としての歴史がある気象庁筑波山地域気象観測所(撮影時)。現在は筑波山神社・筑波大学計算科学研究センター共同気象観測所という名称に変わっている。土地と建物は筑波山神社の所有で、建物は完成してから100年近くも経っているようだ。



富士山レーダーの代替施設として車山山頂に建設された車山気象レーダー観測所。霧ヶ峰高原の最高地点だけに夏はハイカーが次々に登ってくる。山頂に何もなかった時代を知っているので、施設を初めて見た時は大きいのにビックリした。撮影は2007年。



その解説板。パラボラアンテナは直径4メートルらしい。富士山レーダーは直径5メートルなので、少し小さくなったわけだが、代替レーダーが牧之原との2基体制なので、問題はないのかも。



伊吹山山頂にかつてあった伊吹山測候所。昭和2年2月14日には世界最深積雪量11.82メートルを記録したことでも有名。ここも歴史があり、大正8(1919)年から観測が続けられていたが、平成13(2001)年に閉鎖された。写真はその4ヶ月後に撮影したもの。現在、建物は撤去され更地になっている。それにしても、さすが伊吹山。測候所のまわりは花だらけ。



気象観測所だからといって気象庁の施設とは限らない。写真は長野県阿智村にある蛇峠レーダー施設。設置したのは旧建設省なので、現在は国土交通省の施設ということになる。撮影は2004年。



その解説板。観測データは、ダムや河川、道路の管理に利用されているという。



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