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ヤマケイの実態


 2025年9月、アエラデジタルに次の記事が掲載された。

国内最難関「北アルプス・穂高岳」縦走路で相次ぐ死亡事故 「スリルがあって最高!」…お気楽なSNS投稿に専門家は“エンタメ化”を危惧

 なんでも西穂高岳〜ジャンダルム〜奥穂高岳の縦走路で、先月、死亡事故が3件も相次いだという。私は大学生の時に新穂高ロープウェイを利用して西穂高岳に登頂したことはあるし、その後、フリーになってから西穂独標にも行っているが、この区間がかなりの難路であることは知っていて、西穂の先も縦走してみたいと思ったことすらない。しかし最近はYouTubeやSNSに投稿された個人の山行情報を参考にする人も多く、自身の登山技術レベルとは無関係に、たまたま無事に通過できた人による「ルート絶賛投稿」を見て、自分も同じように制覇できると勘違いする経験と技量が不足した初心者までもやってくるようになっているらしい。そんなことが死亡事故の背景にあるのではないか、との指摘だった。

 確かにそれはあるだろうな。無事に通過できた人は、まさに「たまたま」だったかもしれないし、あるいはハイレベルなだけかもしれないのに、登山経験が少ない自分でも行けると錯覚する人って確実にいそうである。今後、国内のほかの上級者コースでも同様の問題が、ますます顕在化してくるのではないか。


◆山岳事故多発の原因となった問題記事

 ところで私がもうひとつ注目したのは、記事の中で紹介されていた西穂山荘の支配人による次の発言。



「およそ30年前にある登山雑誌が注意喚起なくこのルートを特集し、事故が相次いだことがありましたが、それ以来の危機的な状況です」



 30年前というと、当時あった登山雑誌といえば『山と渓谷』か『岳人』くらいだったはず。西穂山荘の支配人がいう「ある登山雑誌」がどの雑誌のことをいっているのか気になって調べてみた。今、本項を読まれているみなさんは、タイトルを見て、もうお気づきですよね。私は過去に『岳人』誌も購読していた時期があるが、一部しかpdf保存していない。一方、『山と渓谷』誌は1984年から購読を始め、1985年〜2011年のバックナンバーはpdf保存しており、確認するのは実に簡単。保管フォルダーの中にある1995年5月号pdfから順に目次を見ていったところ、すぐに見つかった。『山と渓谷1995年7月号』に掲載された「活火山の焼岳から穂高連峰へ、北ア屈指の岩の殿堂を訪ねる」というガイド記事が、西穂山荘の支配人が指摘する問題記事のようだ。記事担当は山口章氏、写真担当は磯貝猛氏。

 全文を読んでみたが、確かに本文中に注意喚起らしい注意喚起はまったくなく、最後の最後、データ欄の山行アドバイスに「このコースは活火山と岩場の殿堂のふたつを歩くもので、縦走としてはかなりレベルが高いといえる」と「西穂高岳と奥穂高岳の間は、北アルプス縦走のなかでも岩稜を登ったり、下りたりするスリル満点のコースだ。必ず経験者と歩きたい」とあるだけ。う〜ん。データ欄の中に小さな文字で書いても、ほとんどの読者が上級者向けの難路ということに気づかないのではないか。書く側からすれば、記事のどこかに「レベルが高い」ということを触れておけば、読者は必ず読んでくれるはず、と思うのかもしれないが、雑誌の読者というのは基本的にざっと写真を見て、ざっと記事を読むだけ。重箱の隅をつつくように目を通したりはしない。たとえ重複しても本文でも触れておくとか、トップページのタイトル横に目立つように「上級者向き」と入れておくべきだったと思う。そんな対策が不十分だったので当時、難路ということを認識しないまま初心者がいっぱい来て、危機的状況を生んだのだろう。

 『山と渓谷』誌のような一般向け登山雑誌であっても、上級者コースを紹介してもいいと思う。ただし、そのことをわかりやすく示し、危険である理由も説明しておくことが条件。それさえ押さえておけば、むしろ一般向きではない難路だということを多くの読者に知ってもらえる機会にもなる。こうした情報により「行こうと思っていたけど危険そうなのでやめよう」という判断にもつながる。情報がなければ、危険であることも認識できないので、かえって危険ともいえる。ヤマケイの問題記事は、上級者コースであることがわかりにくく、なぜ危険かという説明も十分とはいえない。しかも記事担当の山口氏は、このコースを選んだ理由について、文中で「縦走は一本線でいくのが私の美学」と書かれていて、まあ、それもわからなくはないが、現地関係者にしてみれば山口氏の美学のために、事故が多発したのでは、たまったもんじゃないと思ったんじゃないか。


◆生態系知識ゼロの文学部が自然の権威?

 そもそも日本の登山者のほとんどは、ヤマケイは、山や自然を熟知し見識も知識も最高レベルの専門家集団であり、ヤマケイに書いてあることはすべて正しい、と思い込んでいるだろうが、残念ながらそれほどじゃないんだよね。みなさんは知らないでしょう。日本の出版業界は、文学部出身者が最も多く、ヤマケイも例外ではないということを。つまりヤマケイ社員は、多少の例外はあるにしろ高校生の時に理科4教科が不得意で興味もなかったので文系コースに進み、文学部に進学した。物理や化学、地学は不得意だったが生物は得意だった? しかし仮に得意だったとしても履修したのは旧課程であれば生物Tだけだろう。生態系を教える生物Uは大学入試に必要ないのだから履修しているわけがない。もちろん文学部で生態系について学べるわけがない。ということはヤマケイは「山と自然のトップブランド」を標榜しているのに、その根幹である生態系に関わる知識はほぼゼロということになる。生態系の知識がない文学部集団がどうして山と自然の権威であるかのように振る舞えるのか、私はそもそもそこからして理解できない。国立文系ならまだしも私立文系で、生物や生態系のような自然科学の基礎知識が備わっているわけがない。自然を理解するために必要な基礎知識さえ、ろくに学んでいない人たちが、山と渓谷社に入社した途端、山と自然のスペシャリストに大変身? んなわけないじゃん。いくら登山研究所みたいな組織を立ち上げても、結局、編集長クラスに文学部が多ければ、自然について正しい認識をもち山に関わる諸問題を適切に判断し、それを記事に反映できるわけがない。実際、ヤマケイは、「うわ〜〜さすが文学部。なにもわかってない!!」といいたくなるような前代未聞なこともやらかしているのだが、おそらく7〜8割が文系のヤマケイ読者がそれに気づくわけがない。理系でも生物系以外なら無理だし、生物系でも、この業界に疎ければ無理だろうって話。

 こんなことを書くと日本のメディアの中でヤマケイだけがダメだといっているように思われるかもしれないが、そうじゃない。たぶん日本の場合、どのメディアも多かれ少なかれ、叩けば埃が出るのが実態。この記事を掲載したアエラデジタルは、朝日新聞社系列の朝日新聞出版が運営するサイトだが、朝日新聞という日本を代表する全国紙ですら慰安婦問題を捏造して、極めてやっかいな国際問題を新たに作り出すという歴史的大誤報をやらかしているわけだし、TBSは坂本弁護士のインタビュービデオをオウム真理教幹部に見せてしまい、そのことが坂本弁護士一家殺害事件のきっかけになったともいわれる大問題を起こした過去もある。ここ数年だけでもNHKのジャニーズ問題やフジデレビの中居正広騒動、読売新聞の秘書給与不正受給議員人違い誤報もあったよね。つまり日本のメディアは総じていろいろやらかしており、ヤマケイも例外ではない、ということ。山と自然のトップブランドを標榜するヤマケイといえども、実は30年前に山岳事故多発の原因を生み出すという、登山雑誌にあってはならない大失態をしていたわけだ。

 当時、初心者による事故が連続して現地は大迷惑したはずだが、ヤマケイは事故対応に当たった人たちに謝罪するとか、改めて誌面で注意喚起をするなど、誠意ある対応をしたのだろうか。大いに気になるところである。

 ちなみに私の認識では、ヤマケイはもはや山と自然のトップブランドを標榜する資格は1ミリもない、さらなる呆れ果てる前代未聞の大ボケもかましているのだが、みなさんは気づきもしていないでしょう。そんなレベルなのに、揃いも揃って自分こそ山や自然に精通していると思い込むのもどうなんでしょうねぇ。

 そう遠くない時期にこの件も詳しく書こうと思う。本当のことをいわせて頂くと、ヤマケイが山と自然のトップブランドだと認識している登山者は、ひとりの例外もなく全員が何もわかっていないド素人である。まあ、私も20〜30代の頃は同じように思っていたので、まさに「かつて通った道」なんだけどね。今、そう思い込んでいる、みなさんもさらに数十年、登山や自然の世界を極めて、いろいろな情報に接し続けるうちに私と同じような感想をもつ日が来ることに淡い期待をしたい。


◆日本の自然を取り巻く人的環境は極めてお寒い状態

 最後にヤマケイや一般の登山者も含めて文系自然愛好家のほぼ全員に共通する極めて根が深い問題点を指摘しておきたい。文系のみなさんもヤマケイ社員同様に高校生の時に自然科学の基礎である理科4教科が不得意なので文系を選ばれたわけだが、当然、生態系についても学んでないはずだ。問題はそれだけではない。文系と理系の根本的な違いは、文系が暗記中心の学問であるのに対して、理系は理(ことわり)中心の学問であること。つまり文系は理の部分を考える習慣すらもないし、そもそも不得意なのでまったく無関心で「知識=暗記」と思い込み、それを疑問にも感じていない。物事の機序、つまり「なぜそうなるのか」は、専門家だけが理解していればいいくらいの、自分には無関係なことだと思っていたりする。

 なので文系のみなさんは、山や自然の世界に興味をもち、その道に詳しくなろうと考えたとしても、生態系については言葉としては知っているものの、まったく眼中になく、常に「暗記できるものを暗記しよう」という発想になり、例えば山名や山の動植物名などを覚えようとする。これに有名山岳地を踏破した経験でもプラスされようものなら、もう鼻高々(笑)。さらに登山歴を重ねて、この自信が深まれば、それだけで自分は山や自然に詳しいと勘違い。でも最も重要な、自然の摂理はもちろん、生物や生態系に関わる知識を過去に学んだことも考えたこともないわけで、ただただ現地情報や最新の山事情みたいなことだけは人一倍詳しい、でも生態系などの自然科学の基礎知識は恐ろしいほどスッカラカンな人ばかりということになる。ヤマケイ等のメディア関係者やそこで仕事をしている山岳○○みたいな肩書が付く外部関係者も大半が例外ではなく、そんな人たちが日本の山岳界を主導していること自体、問題がないわけがないでしょう。もちろん上記のことをちゃんとわきまえている人であれば、まだマシなのだが、一番困るのは身の程をわきまえていない人。こういう人はほとんどの場合、有害である。

 「自分はもう○年も登山を続けているので、山や自然のことはよくわかってます」とかっこつける文系出身の登山者がよくいるのだが、実は何もわかっていない証拠である。たとえ50年、登山を続けたとしても、それで自然のことを理解できるわけではない。あなたは自然を理解したと思っているが、山の現地状況を知って山名などを覚えただけでしょう。そんなもんは理解したうちには入らない。単に知ってるだけ。理解することと知ることは、まったく違う。自然を理解するとは主に生態系を理解することだが、いくら登山を続けても生態系を理解したことにはならないよね。ということは自然も理解したことにはならない。文系のみなさんは「知っただけ」と「知った上で理解もした」の違いすらも理解していない。ヤバ過ぎますよ。

 実は、ご立派そうに見えるヤマケイも文系読者の延長戦上にあるだけなのだ。現地情報に詳しいことも重要には違いないが、数回、現地を訪ねれば、ある程度は詳しくなれる。そんなことよりももっと重要なことがあるわけだが、それにはまるで想像力が働かない。山や自然の雑学情報を次々に暗記して得意になっているレベル。暗記しかできないので、暗記したことについては饒舌に答えられるが、応用問題になると途端に何もいえなくなる。「なぜそうなるのか」という理の部分は、考える訓練すらも受けておらず、無関心でスルーなんだから、そりゃそうでしょう。そのため暗記してないことに関しては、例えば環境省や専門家などの権威からいわれるまで自分では判断もできないし、逆に空気だけ読んで勝手に判断したりする。この手の文系出身で自称・山や自然に詳しい人たちが、有害な情報発信をしていることも結構多いのだ。しかも日本の場合、ヤマケイだけでなく、ほかのメディアも何もわかっていない文系なので、こういうヤバイ人たちをせっせせっせと大宣伝。仮にメディアにその問題点を指摘しても、自ら検証して確かめる能力すらもなく、できることといえば同業他社の反応を参考にするくらい。でも、その同業他社もやっぱり文系で何もわかっていないので、いつまでたっても軌道修正ができない。結果、永遠に問題が続いて、どんどん悪影響が膨らむわけだ。

 彼らがしていることは、とてもじゃないが笑ってすまされないレベルなのだが、みなさんはそれさえも認識してないでしょう。ヤマケイに書いてあることこそ正解? ヤマケイが判断したことだから正しい? もう、お笑いである。文学部出身の彼らは、自然科学の基礎すら、まったく理解してないよ。登山者はみんなヤマケイを絶賛している。だからヤマケイはスゴイわけじゃない。こんなレベルのメディアを絶賛する日本の登山者が、いかに何もわかっていない超低レベルかというだけのことだ。先にも書いたように日本の登山者の7〜8割は、ヤマケイ同様に自然科学の知識がスッカラカンの文系なので、自分の力だけでヤマケイの問題に気づくこともない。仮にそれを教えても、その問題が具体的に将来、どういうヤバイことにつながる可能性があるのか、もちろんまったく頭が回らない。そんな人たちが揃いも揃って「自分は山や自然のことをよくわかっている」と胸を張り、それどころか専門の教育を受けている生物系学部出身者の認識よりも、受けていない自分たち文系の印象の方が上位で正しいと思い込む、恐ろしいほどおめでたいバカッぷり!! いかに日本の自然を取り巻く人的環境が極めてお寒い状態で問題だらけか、わかるでしょう。


◆ヤマケイも含めて日本の文系自然愛好家ほぼ全員に
共通する大問題とは

それは山や自然に詳しくなることとは、現地情報や雑学情報に詳しくなることだと勘違いしている点。これは極めて根が深い大問題といっていいでしょう。現地情報に詳しいことよりも生態系を理解する方がはるかに重要ということすらも理解していないのに、自分は山や自然に詳しいと胸を張らないことです。何もわかっていないのがモロバレです。

「あなたは、文系なんだから自然を理解するために必要な生態系について過去に学んだ経験はゼロですからね」と教えてあげるまで、自分の力だけでそのことに気づけないのもどうなんでしょう。もう、その時点で「大して詳しくない」ことを自ら証明されたも同然ですよ。

生態系なんて知らなくても別に構わないのでは、とかいっているそこのあなた。生態系がどういうものかも知らないのにどうしてそういうことがいえるんでしょうね。そんなことは、生態系についてひと通り勉強してからいって下さいね。




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