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初秋の山野に咲く赤い吊し舟…
ツリフネソウ

ツリフネソウ科
Impatiens textori
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 ツリフネソウ科ツリフネソウ属の一年草。漢字では「釣船草」と書き、花柄の先に吊り下がる花の形を花器の「釣舟」(舟形の花器で吊して使う)に見立てたものとされる。北海道から九州の山野に分節し、やや湿った木陰を好む。

 高さは50〜80センチ。葉は楕円形〜広披針形で縁には細かい鋸歯があり、互生する。8〜10月に紅紫色の花を付ける。花は長さ3〜4センチでユニークな形をしており、花弁と萼片、それぞれ3個からなり、下の萼片だけ大きく袋状に発達し、後方は細長い距となって、くるりと巻いているのが特徴。この距の中に蜜がたまり、長い口吻をもつ昆虫は正面から口吻を差し込んで蜜を吸うので受粉に貢献するが、そうでないクマバチなどは距の側面に穴を開けて盗蜜する。

 花は、一体形のようにも見えるが、花のつくりをよく調べると、花を正面から見たときにラン科の唇弁のように広がる部分は花弁であり、後方にふくれる萼片と連続してはおらず、別のパーツということがわかる。

 果実は肉質の刮ハ。ホウセンカのなかまなので、熟すとわずかな刺激を与えただけで、果皮が一瞬でめくれて、種子を弾き飛ばす。

関連情報→本サイト植物記「キツリフネ」「ハガクレツリフネ



ユニークな形をした花。正面から見た時に上下に向けて広がる部分はいずれも花弁で、後にふくれる萼片とは別のパーツ。左の花の花柄付け根にある小さな少しふくれた部分が残る2枚の萼片。上の方に見えるのは、若い果実。こののち、もう少しふくらんで楕円形になる。新潟県柏崎市・八石山。



ひとつのように見える花弁には、実は中心にこのように切れ込みがあり、2個の花弁から構成されている。見かけ上はラン科の唇弁に似ているが、実は根本的に構造が異なっているのだ。広島県北広島町。



花を横から見たところ。花弁と後にふくれる萼片の間に線が入っているのがわかるが、ここが花弁と萼片の重なり合いの境界線。それにしてもくるりと巻いた距の形がおもしろい。また花柄が、花の前方寄りの位置についているのは、おそらく花の重心がこの位置にあるからだろう。つまり、これにより花柄に無駄な負荷がかからないメリットがあると想像されるが、こういうところに注目すると、植物体の構造も物理的なバランスがとれる方向に収束するように形作られていることがわかる。新潟県柏崎市・八石山。



ツリフネソウの群生。30年くらい前に長野県軽井沢町で撮影したもの


花期の草姿(左)と白花(右)。どちらも長野県軽井沢町にて。



  
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