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誰も知らない圧巻の群生地
クマガイソウ

ラン科
Cypripedium japonicum
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 ラン科アツモリソウ属の多年草。漢字では「熊谷草」。同属のアツモリソウと対になった名前で、どちらもその袋状の花を母衣(ほろ)に見立てたもの。母衣とは、武士が、敵の矢から身を守るために使った布製の袋のことで、源氏と平家が戦った一ノ谷の戦いで一騎打ちとなった平敦盛(たいらのあつもり)と熊谷直実(くまがいなおざね)が背負っていた母衣に因み、前者をアツモリソウ、後者をクマガイソウと名付けられた。なぜ一方は下の名前で、一方は名字なのかは不明だが、確かにタイラソウ、ナオザネソウでは、どちらもピンと来ない。

 北海道南部〜九州に分布。山野の森林内や低地の竹林などに生育し、群生することも多い。高さ30〜40センチ。葉はほぼ対生するように2個付き、扇形で直径10〜25センチ。放射状の縦じわが目立つ。5月に直径約10センチの独特な花を茎の先に1個咲かせる。唇弁以外は淡緑色で、側花弁と背萼片は内側に赤紫色の斑紋がある。唇弁は袋状をしており、紅紫色の脈がある。とにかく実物を見ると、その不思議な形に目が釘付けになってしまう。どうしてそんな個性的な形を選択したのか、直接、聞いてみたい衝動にかられる。

 過去に自生地情報をいくつか聞いたことはあったが、なかなか行ってみる機会はなかった。ところが最近になって、ようやく自生地を案内してもらう機会を得ることができたので、ワクワクしながら見に行ってきた。
 その山には、登山道さえない。中腹の林道から谷に取り付くが、途中までわずかな踏み跡がある程度で、やがてそれすらなくなる。さらに険しい道なき道を上って谷を詰めると、ようやくクマガイソウの見事な群落がいくつも出現した。ここには40株、少し離れた場所には60株…みたいな感じで谷沿いに群落が点在しており、最大約100株の群落もあった。

 この谷にクマガイソウが群生することは、今回の案内者を含めて極めて限られた、ごく一部の人しか知らないと思われ、仮に探しに行ったとしても、あまりに険しい道に見つける前に断念するのは確実。そんな場所だからこそ、盗掘の魔の手にかかることもなく、無事に存続していると考えられる。
 全国規模で見ると、山梨県西桂町の「クマガイソウ園」のように観光用に公開されている群生地もあるが、何より人間の手が一切関わっていない自然のままに咲くクマガイソウ群落は、気品に満ち、まさに「圧巻」というほかなかった。

関連情報→本サイト植物記「アツモリソウ



見事に群生するクマガソウ。周囲には樹齢数百年と思われるカツラの巨木がそびえ、まさに深山幽谷の趣。









実に不思議な形をした花。唇弁は完全な袋状ではなく、通常の唇弁が左右から包み込むように発達して袋状になったものと思われる。従って中心より少し下に穴があき、側花弁基部に向かって切;れ込みがある。

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側花弁の基部には、細かい毛が密生する。また側花弁基部から唇弁に向けてのびているのは、ずい柱である。マクロストロボで撮影。撮影地は他と同じ。

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唇弁側面には網目状の部分があるが、ここは穴が開いているわけではなく、穴状の部分は半透明になっていて、唇弁の内側が透けて見える。こちらもマクロストロボで撮影。


 
ふくらみかけた蕾。蕾の左側は、合着した側萼片で、舟型をしている(左)。横から見た花。唇弁は意外と奥行きがあり、背後に側萼片を背負う(右)。


  
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