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大町市の居谷里地区で見出された
イヤリトリカブト
キンポウゲ科
Aconitum japonicum subsp. maritimum var. iyariense
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  もう随分前のことになる。私がフリーとして独立した翌年、ある初秋の日に長野県大町市の居谷里湿原を訪れた。時期的に目立つ花はほとんどなかったが、湿原を一巡したあたりで、斜面に花を咲かせたトリカブトがあるのに気がついた。とりあえず数カット撮影してから観察したが、茎がつる状にダラダラとのびる独特の姿をしており、これまでに県内で見た数種類のトリカブトのいずれとも様子が違っていた。
 帰宅して複数の図鑑に目を通したが、一向に該当する種類がない。仕方ないので厚さ7センチもある全1735ページの大著『長野県植物誌』(信濃毎日新聞社)をめくって、ようやくイヤリトリカブトという名前に行き当たった。イヤリトリカブトは、その後も私が知る範囲では『長野県植物誌』以外でその名前を目にしたことはない(私の著書には写真が掲載されているものがあるほか、かつてある雑誌にもこのことを書いたことがあるが)。

 本種は、東北地方南部〜中部地方に普通に見られるツクバトリカブトの変種で、長野県大町市居谷里地区で最初に見出され、私が見た居谷里湿原のほかに飯綱高原など限られた場所にしかないようだ。『長野県植物誌』によると、確かに「枝はよく分枝し、枝はつる状に伸長する」とある。

 ちなみに『長野県植物誌』は、信州のフィールドで植物探索する人にはお勧めの本である。多少値は張るが(23000円+税)、同様の植物誌の中では良心的な値段設定だし、長野県の植物が網羅されているので極めて有益な資料となる。

関連情報→本サイト植物記「トリカブトのなかま



つる状にのびる姿が独特なイヤリトリカブト。葉は3全裂〜深裂し、裂片は粗く欠刻する。



  
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