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ある日突然、庭に出てきた絶滅危惧種!?
マイヅルテンナンショウ

サトイモ科
Arisaema heterophyllum
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 ある時、母から実家の庭(正確には菜園の端っこの竹林の縁)に見たこともないテンナンショウが生えてきたと電話があった(母はテンナンショウの名前くらい知っている)。電話口で聞いただけでは、よくわからなかったが、後日写真を送ってもらったところマイヅルテンナンショウのようだ。実家に帰って実物を見たのは、確か翌年のことだったと思う。付属体がぴんと上にのびる特徴は、まさにマイヅルテンナンショウだと思うが、それまで一度も生えたことがなかったのにどうしてまた? 鳥が果実を食べて種を運んだ可能性が一番高そうだが、テンナンショウの果実は有毒なのではないのだろうか。そもそも鳥が食べることがあるのかどうか。あるいは隣接する他人所有の畑から何かのきっかけで果実がもたらされ、偶然生えた可能性もある。

 ただ、その一方でもともと自生していた可能性も排除できない。というのもこの場所は我が家が移り住んで以降、ずっと長い間ヤブだったのも間違いなく、ヤブを刈って近づけるようになったのはここ十数年くらいのことである。そのため両親は、気づかなかっただけかもしれないともいっていた。確かに本種が目につく仏炎苞を立ち上げるのは、1年のうちごくわずかな期間だけ。それ以外の時期に気づくことはまずないだろう。しかもヤブであれば余計に目にとまる可能性は低いと思われる。

 マイヅルテンナンショウは絶滅危惧U類(旧カテゴリーでは危急種)にも指定されている絶滅危惧種で、『広島県植物誌』(中国新聞社)には記載がなく、環境省のレッドデータブックでも広島県には分布しないことになっている。その後、県内の別の場所で発見され中国新聞の記事にもなったようで、その群落を発見した人から、本項の記事を見てメールを下さったこともある。

 ちなみに実家の絶滅危惧種は、十年以上経過した現在も健在で、環境が合っているのか、次第に増えている。多少なりとも植物の知識がある家に生えていたのは幸運だったんだぞ。もしそうでなかったら、へんてこりんな草とばかりに抜かれておしまいだっただろう。少しは感謝しろよな



関連情報→本サイト「ウラシマソウ




自生していた可能性もある実家のマイヅルテンナンショウ。自生であれば、本来は専門家にでも報告すべきかもしれないが、とりあえずはなくならないように見守り続けることにしたい。それにしても色鮮やかな花をつけるわけではないので華やかさはないが、「個性的な美」に見入ってしまう。






その後のマイヅルテンナンショウは、ますます元気で株数も増えた(左)。2005年頃からは、少し離れた場所にも芽生えが十数株新たに出るようになった(中)ので、念のためその中から数株を別の場所にも移植した。若い果実。毎年、仏炎苞は10個くらい立ち上がるが、花序に雌雄の違いがあるにしても、そのうち果実ができるのはごくわずか(右)。



マイヅルテンナンショウの芽生え。上記記事から10年たった2016年4月の状況。当時よりもさらに株数は増え、毎年5月に立ち上がる仏炎苞の数も増加。群落は少しずつ拡大している。




  
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