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戸隠山で発見されたことに因む
トガクシソウ
(トガクシショウマ)
メギ科
Ranzania japonica

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 メギ科トガクシソウ属の多年草。別名トガクシショウマともいう。本州日本海側多雪地帯に分布し、ブナ林の渓流沿いに生える。日本固有の1属1種で、属名は江戸時代の本草学者(現在でいう博物学者)・小野蘭山に由来する。明治17年、東京帝国大学初代植物学教授・矢田部良吉によって戸隠山で発見され、名前もそれに由来するが、今日、戸隠山に登っても本種を見ることはできない(戸隠山の自生品はかろうじて健在らしいが)。
 ヤマトグサと共に日本人が最初に学名を与えた植物として紹介されることも多く、最初とされるのが2種類あるのは妙な話だが、どちらも間違いではない。ヤマトグサは、明治20年(1887)にまずTheligonum属の一種として報告され、その2年後に正式な学名が付けられている。一方、本種の正式な学名が付けられたのは明治21年(1888)。つまり、「最初の学名」をどう意味づけするか、という違いによる。
 滅多に目にすることができない希少植物だが、東北地方のある山には数百株が群生しているそうである。そこは登山道もなく、ヤブを漕ぎながら谷を何度も越えていかなければたどり着かない場所らしい。ずっと盗掘の対象にされ、過去にはスキー場開発に伴って自生地が壊滅した例もあるようだが、おそらく人知れずに種を継続している自生地がほかにもあるのだろう。ただ「なんとか見たい」という意志さえあれば、それほどハードルは高くない植物といえるのも間違いない。



淡い紫紅色の花がなんとも清楚なトガクシソウ。福島県某所にて



花弁に見えるのは萼片で、写真ではわかりにくいが、内側に並ぶ白色の部分が本当の花弁。時間の経過によって、外側の萼片が先に落ちる(左)。葉は3出複葉。小葉は円心形で、浅く裂け、左右非対称なのが特徴(右)



  
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植物記