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盗掘対象になる受難の野草
サクラソウ

サクラソウ科
Primula sieboldii
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 花が美しく人気が高く、当然、ずっと盗掘の対象にもなってきた受難の野草。かつて九州には航空写真にもピンク色に映るほどの大群生地が何カ所もあったそうだが、ごっそり盗掘され消滅したという。関東地方で有名なのは埼玉県さいたま市の田島ヶ原。ここの群生はなかなか見事で、観光用に公開されている数少ない自生地のひとつだ。

 2005年5月、長野県某所にあるサクラソウ自生地を訪ねてみた。ここは観光用に公開されているわけではなく、あまり知られていない。最初はわからなかったが、目をこらして探してみたところ、ピンク色に染まった一角が川の対岸にあることに気づいた。満開だったにも関わらず、誰も訪れた痕跡がなく、自然のままの見事な群生を堪能できた。これからも盗掘に遭わずに存続してほしい、と願わずにはいられなかった。また2006年5月には広島県北部にあるサクラソウ自生地を訪ねてみたが、ここでも小さな湿地帯にピンク色の花模様が広がっていた。時々小雨が降るような天気だったが、ちょうど最盛期で見事だった。

 ところで以前、ある山岳写真家が書いた本に私の知らないサクラソウ自生地が載っていた。本に掲載されているということは観光用に公開されていると思われた。実はサクラソウ自生地が観光用に公開されていることは少ない。先に紹介した埼玉県の田島ヶ原など数えるくらいだ。珍しいなぁ、と思い紹介できるのならぜひ自分も取材しておこうと考えて、とりあえず詳しく聞こうと地元役場に電話を入れた。本で見たのでと説明すると電話の相手はびっくり。「何の本に載っていましたか」と質問されたので、書名や版元を説明するとさらに絶句。どうやら地元としてはひっそりと保護するつもりだったようだが、それを知らずにその山岳写真家が紹介してしまったらしい。「もう載ってしまったのなら仕方ないですが…」と残念そう。とりあえずそのページをファックスで送ってほしいといわれたので送付しておいた。その本にはご丁寧にサクラソウの自生地を示す地図まで入っていた。心ない人の目に触れなければいいのだが。
 今年その自生地を訪ねてみたところ本で紹介されていたポイント以外にもサクラソウが咲いており、盗掘跡のように見える穴がいくつもあった。ただ盗掘による穴であるとも断定はできなかったし、またこれが仮に盗掘跡だったとしても本の影響なのかどうかも不明だ。

 このように盗掘に対する注意が必要な種類はサクラソウ以外にもいくつもあるが、判断が微妙なものも多い。私の場合は花の紹介はどこまでよしとするか、いつも悩んでいる。これは大丈夫だろうと思っても、中には盗掘しても手に入れたいと思う人がいるかもしれないからだ。私はそういう点について充分に注意し、微妙な種類については紹介するにしても自生ポイントまではわからないようにしているが、結果的に本来は紹介すべきではない種類を紹介してしまったことがあるかもしれない。難しい問題だ。

関連情報→本サイト植物記「オオサクラソウ



サクラソウ群生。広島県北部のサクラソウ自生地にて

 
花のアップ。花冠は径2〜3センチで、上部は5深裂し裂片はさらに2裂する。中心に見える小さな丸いものは雌しべの先端(左)。長野県某所にあるサクラソウ群生地にて。この周囲にも、かなりの数のサクラソウが満開になっていた(右)。



  
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