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水面に浮かぶ、よく似た白い花
ヒツジグサと温帯性スイレン

スイレン科
Nymphaea tetragona
Nymphaea 
cv. Alba Candidissimaなど
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 どちらも水面に花を浮かべる水生植物。ヒツジグサが日本在来の種類なのに対して、各地の池や沼にはあとから持ち込まれた園芸用の温帯性スイレンが、結構あちこちで幅をきかせていることがある。温帯性スイレンの中でも白い花をつけるものはヒツジグサによく似ており、ヒツジグサとして紹介している本や雑誌に出会うこともたまにある。ヒツジグサの花は生育地によって大きさに違いがあるが、全体的には温帯性スイレンの方が花が大きく、花弁の数も多いように感じる。熱帯性スイレンは水面から花茎を突き出す特徴があるのだが、温帯性スイレンはヒツジグサ同様に花が水面に浮くので、これは区別点にはならない。

 長野県志賀高原にも温帯性スイレン(以下、スイレンと略)が多くあり、自然豊かな場所だから、スイレンじゃなくてヒツジグサだろうと思ってしまいがちだが、実は一沼や蓮池、長池に咲く白い花はいづれもスイレンである。また青森県八甲田にある田代平湿原のものも、やはりスイレンだ。
 新潟県妙高高原のいもり池にも、かつてはスイレンが多かった。この池には、もともとヒツジグサが自生していたのが、その昔に近所の人が持ち込んだスイレンの方がヒツジグサを圧倒してしまい、何年か前の段階では7月に訪れると、池の水面のかなりの部分をスイレンが覆っていた。しかし、その後スイレンを除去することになったそうだ。いもり池はたまに訪れているが、スイレンやヒツジグサが咲く時期には行っていないので、除去作業の成果は確認していないが、今後はヒツジグサが増えてくるのではないか。それに期待したい。

 ところでヒツジグサは未の刻(午後2時ころ)に花を咲かせることから、この名前がついたという。しかし実際には個体差がある上に、開花し始めてから満開の段階になるまでに数時間を要するようだ(おそらく気温にも左右されるのだろう)。私が東北地方のある沼に咲くヒツジグサを観察したところ、おおむね午前10〜11時から開花し始めて、午後1〜2時に満開になった花が多かった。しかし午後2時の段階でもまだ半開の花もあったし、必ずしも未の刻というわけではないようだ。
 ※なお上記、温帯性スイレンの学名を記したが、各地で繁殖しているスイレンがこの種類であるという確約はない。温帯性スイレンの代表的種類のうち、白い花を咲かせる品種の一例であるとご理解頂きたい。



ヒツジグサが咲く池。岩手県西和賀町・湯川沼



漆黒の池塘に浮かぶヒツジグサ。群馬県尾瀬ヶ原



温帯性スイレン。新潟県妙高高原・いもり池にて。花弁の数が少なく清楚な印象があるヒツジグサに対して、温帯性スイレンはいかにも園芸種という感じ。




  
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