Nature

一種一種、植物を取り上げて、その植物にまつわる話題を写真とともに紹介します。

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植物記
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丹沢山系の源頭部にひっそりと咲く
サガミジョウロウホトトギス

ユリ科
Tricyrtis ishiiana
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 丹沢山系・塔ノ岳周辺のみに生えるサガミジョウロウホトトギス。ユリ科の多年草で、9月、岩場から黄色い花を下垂してつける。発見されたのは昭和32年のことで、神奈川県小田原市にある県立生命の星・地球博物館に行けば、本物そっくりに作られた模型と、その解説が展示されているが、これに気づく人はほとんどいない。名前の「サガミ」はいうまでもなく神奈川県の旧国名に由来しており、まさしく神奈川固有の花といえるが、神奈川県民の中でこの植物のことを知る人は多くはいないだろう。

 自生地は沢の源頭付近にあり、一般の人が容易に近づける場所ではない。そんな限られた岩場にひっそりと咲く姿には、華やかさはないが、どこか気品に満ちている。ところで塔ノ岳周辺には登山道のごく間近で見ることのできる場所もある。しかし自生地保護の観点から、ここで詳しく解説することは避けたい。

 私がこの花を探しに出かけたのは8年近く前のこと。ヤビツ峠経由で塔ノ岳へ登り、源頭付近に降りて探したのだが、果実になりかけの個体ばかり。せっかく来たのだから諦めきれず、その後も日帰りギリギリの時間まで探し回った。ようやくある場所で対面を果たす。しかし、悲しいことに撮影するにも微妙な時間。それでも無理して撮影したが、途中で日没になるのは確実。撮影を終え、すぐさま表尾根を下った。案の定半分も行かないうちに暗くなり、ヘッドライトを取り出す。しかも、さらに運が悪いことに雨まで降り始める始末。泣きっ面にハチとはまさにこのことだ。雨は見る見るうちに土砂降りになり、登山道に水流ができるほどの中をライトを頼りに尾根を下った。峠が近づく頃は雨も小降りになり、無事帰宅したのだが、撮影ギリギリの時間だったので、うまく撮れていない可能性が高い。それに我慢できず1週間後、再度別の最短コースで撮影に行く。やや終わりかけだったが、今度は何とか撮影できた。本当に撮影に苦労させられた花なので、それだけ印象が深い。
 
 当時はまだ横浜に住んでいたころのことで、その後現在いる丹沢山麓の街・秦野に転居して来た。今ではサガミジョウロウホトトギスの自生地まで直線距離で6〜7キロしか離れていない場所に住んでいるが、その後自生地を訪ねたことはない。サガミジョウロウホトトギスよ。元気にしているか。


苦労して撮影したサガミジョウロウホトトギス。やや小さいが、葉がもっと大きく多数つけている個体もある。気品あるその姿は、苦労してでも出会うだけの価値がある(左)。

  
花冠の基部には、小さな距が3個ある。写真の2個のほかに隠れて見えないが後ろに1個ある(左)。葉は茎を抱く。茎がジグザグに曲がっていることにも注目。沢水が滴り落ちる源頭に生えていたものなので、葉は濡れており、光沢があるわけではない(中)。同じく源頭付近で撮影した若い果実。花は下向きにつくが、果実は上向きにつく(右)。

  
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