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広島の土師ダム湖畔に生育する絶滅危惧種
チュウゴクボダイジュ

シナノキ科
Tilia chugokuensis
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 チュウゴクボダイジュは昭和45年にダム工事の調査中に発見され、県の天然記念物と県の絶滅危惧T類に指定されている落葉高木。「中国地方」に因んでの命名だが、中国地方に広く分布するわけではなく広島県にしかないのだから「ヒロシマボダイジュ」にしてほしかった。ボダイジュの原産地・中国と実に紛らわしい。
 似たなかまとのわかりやすい区別点は葉と果実。本種の葉はゆがんだ卵形で長さ7〜12センチ、葉柄は2.5〜6.5センチ。中国原産のボダイジュに比べて丸みがあり、鋸歯は細かい。また中国や朝鮮半島のほか、広島、島根、山口に分布するマンシュウボダイジュの果実は径8ミリほどの球形で褐色の毛が覆うが、本種の果実には明瞭な稜があり、灰褐色の毛で覆われている。ここでは新種記載者の学名に従ったが、マンシュウボダイジュの品種とする見解もあるようだ。

 ところで『改訂・広島県の絶滅のおそれのある野生生物』や『広島県植物誌』には1株のみとあるが、2006年5月、安芸高田市の土師(はじ)ダム湖畔に生える本樹を訪ねてみたところ、私が見ただけでも少し離れて別に若い木が2本生えていた。おそらくひこばえを移植したのだろう。あるいはほかにも移植したものがあるかもしれない。

 以前、こうした本の情報をもとに本サイト・植物記「植物雑話4 たった1本しかない植物界のトキとは」では本種のことを1株だけと紹介したが、正確には「自生は1株だけ」とすべきだった。よって今回、その部分を削除した。なお現地解説板では発見年を昭和47年としており、ここではとりあえず『広島県植物誌』の情報を採用したが、どちらが正しいか不明。



ダム湖畔に続く県道沿いにあるチュウゴクボダイジュ。この写真では幹が3本あるが、その後、1本が枯死したため根元から伐られた(左)。県指定天然記念物の石標(右)。


チュウゴクボダイジュの葉。中国原産のボダイジュに比べて葉は丸みを帯び、鋸歯は細かい(左)。木の側に立つ解説板(右)。

NEW
チュウゴクボダイジュの花。以前、本ページで開花時期について「5月中旬〜下旬」と予想し、その旨、記したが、同時期に行くと固い蕾しかなかった。続いて6月上旬に足を運んでみたが、ほとんどはまだ蕾で、少し開きかけている花が2つあるだけ。結局、左の写真は6月中旬に三度目の正直でようやく撮影できた。しかし、この時期でも花よりも蕾の方が多い状態だった。この年は5月になっても少し寒い日が続いていたので、例年も同じかどうか不明だが、満開となるのは6月下旬の可能性もある。


  
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