Nature

一種一種、植物を取り上げて、その植物にまつわる話題を写真とともに紹介します。

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植物記
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白い花が満開となった様は見事
ズミとエゾノコリンゴ

バラ科
Malus sieboldii
Malus baccata 
var. mandshurica
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 ズミは5〜6月に白い花を咲かせるバラ科リンゴ属の落葉高木で、北海道から九州まで分布し、特に関東や中部地方の高原などでよく見かける。別名コナシとも呼ばれ、上高地の小梨平はズミが多いことが名前の由来である。一方、エゾノコリンゴはズミによく似た同属の落葉高木で、北海道と本州中部地方以北に分布し、一見すると同じように見えるが、ある程度両種を見比べて見慣れてくると区別はそれほど難しくはない。ただエゾノコリンゴは一般の認知度は極めて低く、明らかにエゾノコリンゴの写真にズミのキャプションをつけている本や雑誌もたまにある。

 だが、ズミかエゾノコリンゴか、判断に迷う個体もある。そのひとつが上高地・明神館前に立つ2本の木。おそらく両種をよく知る人が全体を見れば、ズミと判断する人が多いだろう。ところが、細かく見ると判断に悩むのだ。すべての葉を確認することは不可能なので見た限りだが、この木には中裂する葉は1枚も見あたらない。ところが若葉は2つ折りで、花柄は長さ2〜2.5センチと短く、ズミの特徴を示している。私は花の時期にも見ているが、その時はズミとばかり思って詳しく見なかったので花柱の数などは調べていないが、今年蕾の段階で調べると上記の結果だった。念のため上高地ビジターセンターで意見を求めると、ズミとエゾノコリンゴの両方の特徴があり、何ともいえない、との答えだった。やはり、私と同じように判断に迷ったようだ。ただ意見を聞いた職員の方は「私も見た感じはエゾノコリンゴというよりもズミという印象をもった」とも語ってくれた。
 ただ個体差もあろうから、あるいはこの株は特に中裂する葉が出にくい性質があると仮定すると、中裂する葉が見あたらないからといって、それがエゾノコリンゴとする理由にはならないような気もする。事実、私が軽井沢に生えていたズミを観察すると、古い枝に付く葉には中裂するものは見あたらず、根元から分枝していた「ひこばえ」の枝にだけ中裂する葉がついていた例を実見している。一方、比較的多く中裂する葉をつける例を見たこともあり、図鑑には「長枝に中裂する葉が出やすい」とは書いてあるが、中裂する葉の出現率には個体差もあるのではないかという気がしている。それを考慮すれば、明神館前の木はズミの可能性が高いようにも思える。いずれにせよ、花の時期にもう一度訪れ、もっと詳しく調べてみたい。枝が高い位置にしかないので、花も葉も確認が容易ではないのだが。

 ところで今回、図鑑や植物誌などのさまざまな資料にあたっていて上高地からは葉が欠刻になるミヤマズミ(M.baccata var. hondoensis)が報告されていることを知った。一般の図鑑はもとより『長野県版レッドデータブック』にも載っておらず、『長野県植物誌』にしか記載がない長野県固有種だが、解説文も至って短いので詳細は不明。ただ『長野県植物誌』には「上高地梓川左岸」とある。ひょっとして明神館前の木ってこれのこと? いや、しかし花柄の長さはエゾノコリンゴと同じらしく、私が計測した結果とは異なる。若葉の縁まで詳しく見なかったが、欠刻にはなっていなかったように思うのだが…。しかし改めて思い直すと自信がない。やはり、もう一度見に行くしかないか。

追記
 2009年6月、明神館前に立つズミらしき木を詳しく観察したので、その結果を書いておく。明神館前に立つ方の木は、ちょうど満開状態(隣の梓川左岸道沿いの木は花は完全に終わっていた)だったが、枝に手は届かず、風で落ちたと思われる葉付きの花が根元付近に2、3あったので、それを拾って観察した。すると花の大きさは径約3センチ、花柱は3個、若葉は2つ折り、花柄の長さは3.5〜4.5センチ(前回計測したときは蕾の段階だったので、まだ生長途中で短かったのかもしれない)という結果だった。また葉の縁は欠刻にはなっていなかった。やはり、どちらの特徴も兼ね備えている「微妙な個体」といえるかもしれない。ズミとエゾノコリンゴの雑種って聞いたことないけど、その可能性も?


                 ズミとエゾノコリンゴの比較
ズミ エゾノコリンゴ
若葉 2つ折りで出てくる 巻いて出てくる
濃紅色 白色〜淡紅色
葉の形 3〜5中裂する葉がある 中裂しない
花柄の長さ 2〜2.5センチ 2〜5センチ
花の大きさ 2〜3.5センチ 3〜4センチ
花柱 ふつう3個(稀に4個や5個のことも) ふつう5個(稀に3個や4個のことも)



快晴の青空を背景に満開となったズミ。長野県東御市・臼窪湿原。


ズミの花期樹形。栃木県日光市・戦場ヶ原にて(左)。エゾノコリンゴの花期樹形。長野県松本市・乗鞍高原(右)。


ズミの花枝。写真ではわかりにくいが、花柄が短い(左)。一方、エゾノコリンゴの花柄はズミに比べて長い(右)。どちらも長野県松本市・乗鞍高原にて。


ズミの特徴のひとつが、一部に中裂する葉が出ること。中裂する葉としない葉が混じって出るズミの枝(左)と秋に赤熟するズミの果実(右)。どちらも新潟県妙高市・妙高高原にて。



判断に迷う上高地・明神館前のズミ(?)。明神岳を背景に満開となった様は見事だが、悩ましい木だ(左)。その若葉は、2つ折りになっていた(右)


落ちていた葉付きの花を拾って撮影。花は小振りだが、花柄はやや長め。上は約3.5センチ。左下のものは約4.5センチもある。確かにズミにしては長いといえそうだ

  
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