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市街地から高山帯まで広く分布する
キアゲハ
Papilio machaon
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 キアゲハといえば、アゲハチョウ(ナミアゲハ)と並んで、日本全国で普通に見られるチョウとして知られる。セリ科植物を食草とするため、実家の菜園に植えたパセリやニンジンにいつの間にか幼虫がいて、葉を丸坊主にしているかと思えば、意外にも北アルプスなどの亜高山帯〜高山帯で見かけたことも何度かある。それほどに生息域が広く、馴染みのチョウの一種といえそうだ。

 アゲハチョウと比較すると、翅の模様はそっくりだが、本種前翅の付け根側にはスクリーントーンを貼り付けたような網点模様によって塗りつぶされた部分があるので、ここが縞模様になっているアゲハチョウと区別できる。また成虫の翅の模様はそっくりなのに、五齢幼虫の体表面模様がまるで違うのも不思議といえば不思議である。

 先日(2017年7月)、志賀高原の名峰・岩菅山から裏岩菅山へ縦走した帰路、ハクサンシャクナゲを撮影中、ふと地面に目を落とすと、そこにキアゲハが止まっていた。飛び立とうとしても、なぜかうまくいかず、翅をバタバタさせるばかり。そのため地面から離れられないようだった。そこでキアゲハの脚にそっと指先を差し込んでやると、脚を載せてきたので、そのまま立ち上がると、ようやく飛び立ち数メートル先のハイマツの枝に止まった。なんだ。ちゃんと飛べるんじゃん。「ちょっとばかし助けてやったんだから撮影させろよな」…とばかりに連写させてもらった。ひとしきり撮影を終えた頃、再びキアゲハは高く飛び立ち、あっという間に稜線の彼方に飛び去っていった。
 それにしても実家周辺にも普通にいるチョウが、岩菅山にもいるなんておもしろい。最初、一目見た際に高山系のチョウかと一瞬、期待したのだが、前述したスクリーントーンのような模様があるのに気づいて、キアゲハとわかった。

関連情報→本サイト動物記「アゲハチョウの羽化



岩菅山〜裏岩菅山の稜線上で出会ったキアゲハ。羽化してからあまり時間が経ってないみたいで、翅に傷や欠けもなくきれい。撮影のしがいがあった。

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翅の模様は見慣れているものの、改めてよく見れば、芸術的レベルということに気づかされる。黒と赤の模様の中にグラデーションのような青がちりばめられ、やっぱり「このデザインは誰がしたのだろう?」という、いくら不毛ということはわかっていながらも、どうしてもその答えを知りたい衝動にかられる。自然のセンスって、本当に恐ろしいほどである。つくづく思う。人間ごときが自然に勝てるわけがない…と。



岩菅山のキアゲハ同個体。人間でいえば、高価な毛皮コートをまとっているような長毛に覆われていることがわかる。ひょっとすると実家のキアゲハと比較すると、低気温に適応するためにより毛深い可能性も高そうだ。今度、実家のキアゲハ成虫を撮影して比較してみたい。



以前、撮影した実家菜園にいたキアゲハの五齢幼虫。白い紙の上に置いてストロボ接写したもの。



身体をチョンチョンと突くと、臭角と呼ばれる異臭を漂わせる角を出す。角といっても袋状になっていて、体液の出し入れによって、膨らませたり、収納したりできるようになっている。キアゲハの臭角は、臭いだけでなく、オレンジ色のV字形は目立つので、敵をひるませる意味があるのかもしれない。


 
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