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屋久島に生息するニホンザルの亜種
ヤマシマザル
(ヤクザル)
Macaca fuscata yakui
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 オナガザル科マカク属の哺乳動物。屋久島のみに生息するニホンザルの亜種。ホンドザルよりも小さく、体毛がやや長く、手足が黒っぽいなどの違いがある。かつて個体数が減少し、環境省のレッドリストで希少種とされたこともあるが、現在は増加してリストから外れている。ヤクザルとも呼ばれるが、鹿児島県のレッドデータブックを初めとして哺乳類関係の資料では、ヤクシマザルの名称が使われることの方が多い。屋久島では西部林道など島内各所で姿を見かけるが、ヤクシカと比べると遭遇頻度は低い印象である。
 Wikipediaによると1950年代までは、隣の種子島にもニホンザルが生息していたが、その後絶滅したという。それがホンドザルなのかヤクシマザルなのかわかっていないそうだ。どこかに頭骨とか残っていれば、遺伝学的な解析を行って調べてほしいものである。どちらの結果でも大変興味深い。

 さて、その西部林道を走行中、ヤクシマザルの群れに遭遇したので車を停めてカメラだけ持って群れに近づいた。最初はチラチラと目を向けてくるばかりで、逃げることもない。しかし、ある一定の距離を越えたところで、少し離れて見ていたボスザルと思われる個体が鋭い声で威嚇してきた。これはマズいと思ったので、スゴスゴと数メートル引き下がった。ボスザルはじっと私を見据えながら前を横切って離れ、ほどなく姿が見えなくなった。つまり、後退した場所なら彼らにとって許容される距離ということのようだった。まるで「コラッ!! それ以上近づくな」…「それくらい離れたのなら、まあいいか」…みたいな感じで、ボスザルの意志が実にはっきりと読み取れた。

 またヤクスギランドから帰途に就く途中に出会った群れでは、次のようなことがあった。この群れは観光客などの人間と遭遇する機会が多い場所柄なのか、西部林道の群れよりも許容範囲が広いようで、近寄っても反応は鈍かった。2〜3メートルという近距離から撮影させてもらい(最下段の写真)、もう十分撮影したので切り上げようと立ち上がった瞬間、目の前にいた3頭のうち成体と思われる1頭が「キキキーッ」と血相を変えて目の前に迫ってきたので、びっくり。あまりの急展開に一瞬何が起こったのかわからなかったのだが、すぐに「ああ、そういうことか」と合点がいった。つまり最初あまり警戒されなかったのは、遠くから屈んでゆっくり近づいたからと思われる。ところが撮影を終えて立ち上がったことで、サルにしてみれば急に警戒対象である私が大きく見えて恐怖心がわき起こり、威嚇行動に出たのだろう。もちろん威嚇だけで、ツメで引っかくような攻撃は受けなかったのだが、相当驚かされた。

 群れや個体で多少の違いがあるにせよ、人間でいうパーソナルスペース(心理学用語で他人が入ってくると不快に感じる空間のこと)みたいな一定の範囲がヤクシマザルだけでなく、すべての野生動物にあるのは当然であり、観察時には彼らの反応をよく見極めた方がよさそうだ。

関連情報→本サイト動物記「ニホンザル




岩に座り込むヤクシマザル。手が黒っぽい点に注目。西部林道にて(以下、4点も同様)



無関心を装っていても、時折、しっかりと視線を投げかけてくる。やはり私は、彼らから見れば常に「要警戒対象」なんだろうな(上・下とも)。






親ザルの背中にしがみつく子ザル。



エサとなるツル植物をたぐり寄せる。



彼らにとって舗装道路は手ごろなくつろぎの場である(上・下とも)。






ヤクシマランドから下る県道で。写真右が、立ち上がった瞬間に威嚇してきた個体である。


 
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