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カンブリア紀から約5億年の歴史がある
節足動物の複眼
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 昆虫類などの節足動物が持つ複眼は、数千から数万個もの個眼が隙間なく集まった構造をしている。ひとつの個眼は、レンズと視細胞からなり、それぞれの個眼から得られた視覚情報は脳に送られて画像として認識される。人間の眼は、ピント調整ができるなど、その光学系がカメラに似ていることからカメラ眼(かめらがん)と呼ばれるが、これと異なり広範囲の視野を得られる点が最大の特徴といえるだろう。また複眼はカメラ眼と比べて、細かい画像を認識できる能力は低いが、ハイスピードカメラのように時間的な分解能力は高いとされる。

 30年くらい前の生物系の本に「トンボには世界がこう見えている」として、まるで隙間なく無数に並べられたテレビを遠目で見ているが如きの、つまりトンボが花を見たらすべてのテレビに同じ花の映像が映っているような想像図が提示されていて、「それはないんじゃないか」と思ったものだが、やっぱり今でも疑問に感じざるを得ない。複眼は、古生代カンブリア紀に現れた三葉虫も持っており、約5億年もの長きに渡って節足動物の視覚器官としての役割を担ってきたわけだ。もし、そんな画像しか見えていないとしたら天敵の接近にも気づきにくく、生きていく上でもさまざまな支障があると思われる。進化の過程で視覚器官の構造として淘汰されなかったことから考えると、ひとつひとつの個眼が切り取った視覚情報を脳で合成していると考える方が自然ではないだろうか。



アゲハチョウの複眼。モアレが生じるほど、個眼が緻密に並ぶ様を見れば見るほど、生命に対して畏敬の念を抱かずにはいられない。この極めて微細な個眼ひとつひとつにレンズと視細胞があって、それが視神経で脳につながっている…。視覚器官なのだから、当たり前の話ではあるが、同じものを人間が人工物で真似て作ることは今の科学技術では不可能である。



シロフアブの複眼。画像を拡大すると、ひとつの個眼は、中央部が突出した形をしていることに気づく(下の写真参照)。ただその構造を見てとれるのは左右両複眼の前方あたりに配置された個眼だけで、すべての個眼も同じなのか、ほかのカットを確認したが、よくわからなかった。このことは撮影時には気づかなかったので、今度、機会があれば確認してみたい。ひょっとして吸血対象を探す際に重要となる前方の複眼と、それ以外の複眼とでは構造が異なっている可能性もあったりして…??



中央部が突出した二段構造になっているシロフアブの個眼。くぼんでいるように見えるが、画面中央やや右下あたりの、斜めに写っている個眼群に注目すると突出していることが一目瞭然だ



三葉虫の化石に明瞭に残る複眼(矢印)。写真の三葉虫は防御態勢で丸くなったもの。モロッコ産。(標本現物は実家の所有だが、現在は広島大学総合博物館に収蔵)。



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山で出会った動物について話題や体験談を紹介します。ここでは昆虫類や両生類なども含めて動物全般を広く扱います。

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動物記