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実は帰化動物という説も
ニホンヤモリ
Gekko japonicus
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 ヤモリといえばトカゲの一種で、「守宮」「家守」と書き、古来より害虫を退治して家を守ってくれる有益な存在と考えられてきた。夏の夜、飛来する虫を補食しようと窓ガラスに貼り付いたヤモリを裏側から見かける機会も多いだろう。そんな時は、ぜひ指先を観察してみよう。丸くて平らな指先には、縞々模様があることに気づく。これって何だろう?

 そもそもヤモリは、なぜガラスのようなツルツルな物体にピッタリと貼り付くことができるのか。その理由こそ、指先の縞々模様にある。一見すると皮膚が鱗のように張り出しているようにも見えるが、実はこれ、太さ100ナノメートル(0.0001mm)という、ものすごく微細な毛が集まってできている。これほど微細な毛だと、ガラス分子との間に分子間力が働いて、その引き合う力で貼り付くことができるそうだ。吸盤のようなしくみで貼り付いているわけではないのである。

 2年前の冬(2010年)、実家で冬眠中のヤモリを偶然発見して、指先のアップ写真を撮影したことがある。この時は、いざベローズ接写しようとしたら、高拡大率が可能な短焦点レンズを持ち帰っていないことに気づいた。しかし、動きが鈍い冬眠中のヤモリを捕獲できるなんて滅多にないチャンス。このチャンスを逃すわけにはいかない…というわけで、比較的安いニコンの50mmf1.8のレンズをこの撮影のためにわざわざネットで購入する。ベローズ接写用にあってもいいと判断したこともあるのだが、まあ、ヤモリの指先のためにわざわざレンズを買うバカは、日本広しといえども私くらいだろう(笑)。レンズは翌日に届いたので、それを使って、無事撮影に成功した(指先拡大写真は、本サイト「Close up! File No.0021」参照)。

 ところで先月の実家滞在中にも、いろいろな動植物を撮影したのだが、ヤモリだけはなぜかほとんど見かけなかった。また捕獲して、もっと引いた写真も撮りたいなぁ…と思っていたのになかなか姿を見せてくれない。
 自宅に戻る2日前の朝のこと。ようやく実家の壁面に一匹のヤモリが貼り付いているのを発見。まるで私の心情を察して現れてくれたようにも思えるほどの絶妙なタイミング。早速、捕虫網で捕獲した。
 ヤモリは噛みつくこともあるようなので、ビニール手袋をして捕虫網から取り出そうとしたが、まるで粘着物質でもあるかのように指先が網にくっついているので、ベリッ…という感じで網から外した。その後、フィルターの囲みの中に移動させたが、その時だけ「キュッ」と小さく鳴いた。こうして前回同様の方法で撮影したのが、以下の写真だ。なんとなく前回と同個体のようにも思えた。
 
 やや気温が低いからというわけでもないと思うが、意外にも反応は鈍く、フィルターの囲みを外しても、逃げようともせずにじっとしたまま。ネットで調べるとヤモリは「臆病で攻撃性も低い」と書かれている。撮影を終えて、再び実家の壁面に解放してやると、ノソノソとゆっくり上り始め、小さな隙間に身を隠した。

 ニホンヤモリの種小名「japonicus」から日本固有種のように思えるが、以前から国内の個体群に関しては帰化動物の可能性が高いと指摘されてきた。また最近、兵庫県立人と自然の博物館の研究員が全国のヤモリの詳しい遺伝子解析を行ったところ、違いはほとんどなく中国大陸のヤモリと類似していることが判明したとのことだ。平安時代以前の古い文献には登場しないことから、それ以降に大陸から持ち込まれた可能性があるという。ヤモリの指先の構造から考えると自力で冬眠用の穴を掘ることもできないので、暖房を使う民家という環境があることによって、日本の市街地にだけ定着した…ということらしい。



ニホンヤモリ。周囲の環境に合わせて体色の濃淡を変えることができる。また尻尾はニホントカゲと同様に危険が迫ると自切する。


どことなくユーモラスな「ガラスに貼り付くヤモリ」。といっても普通のガラスなら、クリアに拡大撮影できないので、厳密にはプロテクターフィルターに貼り付いてもらって撮影した。指先の縞々模様に注目。



 
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