ヤモリの指先

正体が何か、まったく想像がつかないだろうけど、実はこれヤモリの指先。先日、実家のテラスに置いてあるテーブルの隙間に隠れていた冬眠中のヤモリを発見。活発に動き回る夏は、捕まえること自体難しそうだが、冬眠中は動きが比較的鈍いので、簡単に捕獲に成功。迷惑そうなヤモリ君に少々協力してもらって2枚のプロテクターフィルターの隙間に厚紙で囲いを作って挟み込み、フィルターの裏側から手のひらをクローズアップしてみた。体長5〜6cm程度の子供なので、余計に撮影しにくいことに加えて、どうも様子がおかしいと思ったのか、なかなかじっとしてくれないので、撮影は苦労した。何とか動きを止めた瞬間を狙ってシャッターを押す。夏の夜に窓ガラスに貼り付いているヤモリの手足を裏側から見て、いつかアップで撮影してみたいと思っていたのだが、ようやくその願いが叶ったわけだ。

それにしてもヤモリはなぜ、ガラスのように表面がツルツルの物体にも貼り付くことができるのか。実は太さ100ナノメートル(0.0001mm)という微細な毛が無数に生えていて(右上写真参照)、これほど細かい毛だと窓ガラス表面の分子との間に分子間力が働いて、その引き合う力で貼り付くことができるという。縞々の部分が吸盤のように機能して貼り付くわけではないらしい。

だが、分子間力で体重を支えているにしても、手足を離す時はどうしているのだろうか。その理由は、手足の動きを観察すると、ある程度、想像ができる。ヤモリはいきなり手足の全表面を一度に離すのではなく、まず手のひらの中心部から指先に向けて、徐々に離していく。つまり、ちょうど面ファスナーを端からベリベリと剥がす方が、全体を一気に剥がすよりも少ない力ですむのと同じことで、手足にかかる負荷をうまく分散させているといえる。毛が生えている部分と生えていない部分が縞々に交互に並んでいるのも、おそらくこのことと無関係ではないだろう。ちなみに手足を置く時も指を外側に反り返らせて、まず中心部分を置き、それから徐々に指を下ろしている。それを繰り返しながら移動しているのだ。

生物が作り出す「形」は、なぜこうも美しく、絵になるのだろうか。これぞ、まさに「機能美」といえるかもしれない。加えて理にかなった身体のしくみにも驚愕する。たかがヤモリと思ってはいけない。どこの家にもいる身近な動物にも驚きのしくみが隠されている。
   
ちなみに手の甲は、こんなにゴツゴツしており、先には爪もある(左上)。ヤモリもこうして見ると、いっちょ前にトカゲや恐竜を彷彿とさせる「は虫類」の顔をしているなぁ(右)。今回、協力してもらったヤモリ君は、1円玉と比較するとこんなに小さくて、余計に指先のアップ撮影には苦労した。フィルターに挟まれた厚紙の囲いの中でじっとしているところ(左下)。せっかく冬眠していたのに、無理にモデルにしてゴメンね!  

Nature
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File No.0021

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