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北海道から九州まで広く分布する毒ヘビ
ニホンマムシ
Gloydius blomhoffii
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 毒ヘビなので、山で注意しなければならない相手であることに違いはないが、草むらに潜むことが多いせいか、私は登山中にマムシを見たことは一度もない。それ以外でも目にしたのは数えられるくらい。随分前のことだが、ある山から下りて登山口にある神社境内を通ると、神社の人がマムシを火ばさみで捕まえて、無理矢理一升瓶に入れようと奮闘されている姿を目撃したことがある。マムシ酒の材料にされそうなのを理解していたとは思えないが、異常事態であることは感じたらしく、そのマムシは一升瓶に入ることを徹底的に拒否していた(笑)。でもマムシ酒というのは、マムシを1ヶ月くらい餌を与えずに飼育して体内の糞をすべて排出させてから作るものなので、見つけてすぐに酒漬けにするというのも不衛生極まりない話であって、最終的にうまく一升瓶に閉じ込めることに成功したとしても飲用に適するマムシ酒を造れたか疑問である。

 ところで先日、岐阜県山中の舗装林道を走行中、路面上にヘビの姿を確認。道路の真ん中あたりでじっとしており、直前まで気づかなかったこともあって回避もできず、ヘビをまたいで車を停めた。目に入ったのは一瞬だったが、形からマムシだろうと思い、車から降りて確認するとやはりそうだった。おそるおそる近づいて望遠レンズで撮影したが、マムシが警戒するほどの距離ではなかったと見えて無反応。
 アスファルト路面で撮影後、できれば草むらで撮影したいと思い、長い木の棒を拾ってきて身体を押すと、ビクッと鋭く反応し、顔をこちらに向けてきた。その俊敏な動きにようやく納得したものの、なかなか思うように移動してくれない。尻尾の先を細かく震わせて威嚇していたが、さらに執拗に棒で押していると、仕舞に逃げ出してしまった。
 勝手なマムシのイメージとして、こういう状況下では咬みつこうとジャンプしたり、もっと攻撃的なのかと思いがちだが、いかにも毒ヘビらしい容姿の割には意外にも温和。爬虫類図鑑にも「ハブなどに比べると性質は温和で、動きは鈍い」「ジャンプして咬みつくこともない」と書かれているのを読んだことがあるが、今回、その点を実物で確認できた。
 ただ、もしこれが草むらの中であればマムシの存在に気づくこともなかっただろう。人間がガサガサ草むらに踏み入ると、マムシの方が警戒して先に逃げ出すのではないかと楽観的に想像していたのだが、今回、マムシの行動を観察して、本当にそうなのだろうかと疑問に感じた。シマヘビなどは、足音だけで逃げてしまうこともあるように思うが、マムシの場合は近くを通っても逃げないのではないか。従ってマムシに気づかないまま正面から接近した場合や、踏みつけてしまった場合に咬傷被害を受けるということなのだろう。

 咬んだ際に注入される量は少ないものの、マムシ毒は、ハブ毒よりもずっと強力とされ、いうまでもなく万一咬まれた場合は、すみやかに医療機関に行く必要がある。昔よくいわれていたような毒を排出させるために素人が行う切開は感染症の危険もある上に正確な咬傷跡がどこかわからなくなるためにしてはいけないとされる。口による吸引も歯茎から出血がある場合や口腔内や口の周辺にキズがある場合は避ける。吸引器があれば使用し、水があれば血をしぼり出して洗浄せよとのことだ。中枢側(脳や心臓)に近い場所を軽く縛る程度にし、なるべく安静にして医療機関に行き、マムシ坑毒血清投与を受ける。咬まれた時刻や状況などを医師に説明できるように覚えておくこと。また咬まれたヘビがマムシかそうでないかの確認も忘れずに。

関連情報→本サイト動物記「ヘビ




岐阜県下呂市の舗装林道で遭遇したマムシ。暗い銭形の斑紋が特徴だが、体色には変異があるようだ

 
いかにも「私、毒ヘビですよ」といいたげな姿だね(左)。三角状をした頭の形にも注目(右)。



 
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