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高山帯の人気者
オコジョ(ホンドオコジョ)
Mustela erminea nippon
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 オコジョは、イタチのなかまで、北海道にエゾオコジョ、本州中部以北にホンドオコジョが分布する。どちらも高山帯を生息地とし、登山者の人気も高い。その愛嬌のある容姿から性質も温厚そうに思えるが、実際は見かけに反して獰猛な肉食動物で、ネズミや自分よりも大きなライチョウを襲って捕食する。

 私が初めてオコジョを見たのは大学生の時、場所は西穂の稜線。すばしっこい動きに加えてマニュアルフォーカスカメラでは何とか撮影するのがやっとだった。その後も何度か目撃はしているが、なかなかじっくり出会える機会がなかった。
 先日、久しぶりにオコジョに遭遇。場所は立山の獅子ヶ鼻平でのこと。取材のため室堂から一ノ谷に向けて下る途中、ザックを下ろして湿原の池塘をカメラに収めた。撮影を終えザックのそばに屈むと、木道の隙間からオコジョが突然、顔を出した。そこは手が届くほどの距離で、不思議そうな顔をして私を見つめたあと、木道に隠れてしまったが、それも束の間。すぐに別のところから現れ、やはりじ〜っと私を見る。また隠れたかと思うと、今度は木道の反対側から現れる…。そんなことを何度も繰り返し、時には「キイッ」という鋭くて短い鳴き声を上げたり、数メートル先からダッシュして私の方に近づき、手前でサッと曲がって木道の下に潜り込むような行動も見られた。警戒しているというよりも好奇心いっぱいで、じゃれているようにも感じられた。時間にして10分ほどだろうか。オコジョとの出会いを楽しみ、その間、約60カットの写真を撮影できた。
 9月上旬の立山は、紅葉にも早く、まだ夏の風景だったが、しかし湿原は少し黄色く色づき、立山黒部アルペンルートもハイシーズン中に比べれば人出は少なかった。室堂から下る道すがら出会った登山者は数人のみで、それも遭遇のための好条件になったのかもしれない。
 獅子ヶ鼻平のオコジョくん。姿を見せてくれてありがとう。君のお陰で、とても充実した山旅になった気がするよ。
 

関連情報→本サイト動物記「ニホンイイズナ(キタイイズナ)」 




「おや〜、変な動物がいるぞ。君はだれ?どこから来たの?ここはボクのテリトリーだけど、遊んでくれるのならいてもいいよ」。そういいたげな表情で私を見つめる立山・獅子ヶ鼻平のオコジョ。つぶらな瞳と愛くるしい顔。見れば見るほど、まるで「ぬいぐるみ」。獰猛な肉食獣ということを忘れてしまいそうだ。


 
オコジョは真正面から見るとかわいいけど、横から見るとネズミと大して変わらないんだよね。でも立ち姿は、ネズミとはひと味もふた味も違って、実にユーモラス。「下界じゃ、レッサーパンダとかっていう奴らの立ち姿が人気らしいけど、ほらボクだってちゃんと立てるんだよ。どう?すごいでしょ」って、きっと思ってるぜ。あのね〜、きれいな立ち姿は誉めてあげるけど、そのユーレイみたいな手は、何とかしてよ(笑)


@あの変な動物の正体を見極めてやる!! クンクン。Aう〜ん、ボクの嗅覚をしても正体がわからんぞ。よ〜し、とりあえずダッシュでもしてみるか。えいっ、オコジョダッシュ!! どう?素早い動きについていけないでしょ。Bこうなったら、じっくり観察してやろう。じ〜っ。Cやっぱ、わからん。じゃあ、もう一度ダッシュ!! えっ、尻尾の先が黒いの気づいた? なかなかオシャレでしょ。自分でも気に入ってるんだ

Dついでにそれっ、ジャンプ!! Eそうだ。この隙間に隠れて、あいつを観察しよっと。Fここは頭だけ出して観察するのに手頃だな〜。じ〜っ。でも、何だか飽きてきたよ。あんな奴ほっといて、そろそろ餌場に行こうかな〜


 野生動物の研究者からは、「かわいいからといって擬人化するな」とお叱りを受けそうなので、一応、先に謝っておこう。ゴメンナサイ!! あまりのかわいらしさに、ついこんなキャプションを付けてしまいました。

 写真キャプションを読んで、思わずニンマリしてしまった、そこのあなた!! 「ボクって書いているけど、この個体がオスであると、どうして断定できるの?」くらいの指摘ができないようじゃ、ダメですよ。あなたも。

 ペットなんて特にそうだけど、動物の擬人化はいろいろ問題があり、かつてテレビ番組「志村どうぶつ園」で人気者になったチンパンジーのパンくんなんかがいい例かも。確かに愛らしい姿に見入ってしまう視聴者も多かったと思われる。しかし動物園関係者や霊長類の研究者からは、番組の演出に対して批判があったのも事実だ。擬人化の問題点を理解した上で、ちょっとお遊びで擬人化するくらいは許されるが、それを動物本来の姿であるかのように勘違いしないことが重要だろう。

 
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