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車の前を横断したキジがとった行動とは?
キジ(T)
Phasianus versicolor
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 2008年6月、取材先の岩手県盛岡市郊外でのこと。田畑が広がる山里の狭い舗装道路を市街地へ向けて車を走らせていると、左手の草が生い茂る斜面から数羽のヒナを連れたキジのメスが道路に降りてきて目の前を横断した。私の車がゆっくりだったので、さほど危険を感じなかったのだろう。驚かさないように車を停めて横断を待っていると、途中でメスの動きが鈍くなり、どうも私の車を気にしているようだ。どうするのか興味をもって観察していると、横断し終えた草むらの中にヒナを残し、メスだげが再び車の前を横断して元の斜面に戻り、自分の存在をアピールするかのように運転席から見える位置まで上がってきた。離れた場所で自分の方に目を惹きつけて、ヒナを守ろうとしたのだろう。鳥ではよく見られる行動だと思うが、いやはや涙ぐましい行動である。単純に「本能」と決めてかかるのもどうかとつくづく思う。
 このあと、そっと車を発進させ、その場を離れたのだが、この一件で感じた疑問。メスが斜面に戻る時、ヒナはついて行かなかった。なぜか横断先の草むらの中でおとなしくしていた。普段はメスの後をついて離れないのに…である。危険を知らせるメスの鳴き声で、ヒナも状況を理解していたのかもしれないが、それを理解できるのも考えみれば不思議なことである。ヒナはそれをいつ、どうやって教わったのか。

 普段、山などで出会う動物も、よく観察していると、いろいろなことを感じる。人間様がこの世で一番エライ。そう思い込んでいることが、極めておこがましいことではないのか、本能に従ってるだけと見なしがちな動物の行動には、実はもっと深いものがあるのではないか、そんなことも考えさせられる。彼らは何も主張しない。人間の勘違いさえもただ静かに受け入れるだけである。愚かなのは人間の方なのかもしれない。

関連情報→本サイト動物記「キジ(U)




ヒナを伴って道路を横断するキジの♀

  
上の一番大きな写真が道路を渡り始めた段階。続いて@→A→Bと続くわけだが、メスが次第に動きを止めて、こちらの方を気にしているのが見てとれる。



 
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