Nature

私が取材先で体験したこと、感じたことなどを好き勝手に書いたものです。

植物記
<<前のページ | 次のページ>>
モデルの工夫


 風景写真では人が入らないようにすることが多いようだが、それとは対象的に私が登山道や遊歩道の写真を撮るときは、なるべく人も一緒に写るように努力している。人が写っていた方が写真にリアリティーが生まれ、さらには自分と置き換えて見ることで、その場の雰囲気が伝わりやすいからで、実は多くの出版社の要望でもある。そこで、なるべくほかの登山者やハイカーを入れてシャッターを切るようにするわけだが、訪問者がいない時は自分自身でモデルになるしかない。私の書いたガイドブックには、あちこちに私が写っているが、これは決して出たがりだからではなくて、そんなやむを得ない事情があるのだ。ほとんど後ろ姿になっているのがその証拠だ。本当のことをいうと、実はまったく写りたくはないのが本音だ。両親の知人から、時には正面からの写真も見せて、というリクエストを頂いたこともあるが、どうかご勘弁のほど。
 ところで自分自身がモデルになると、いろいろ気を使わなければならない。例えば、普段歩くとき私は汗拭き用のタオルをザックのショルダーベルトにかけているが、タオルがだらんと垂れていては格好も悪い。だから撮影の度に外している。そして三脚を立てて適当な場所に立ち、赤外線のリモートコントロール装置でシャッターを切るわけだが、ファインダーの接眼部から外光が入ると露出にも影響するので、撮影の度に接眼部にはキャップもつける。さらに自分でモデルの立ち位置などの確認ができないので、立ち位置にちょうどよさそうな場所の草や木のポイントをファインダーで確認してから、そこに立ち、露出補正もしながら余裕を見たカット数で撮影する。また以前はあまり意識していなかったが、最近は自分自身が身につけるものも気にするするようになった。例えばザック。常用しているザックは青系統や黒色のものもあるが、それでは目立たない。グリーンシーズンの写真では緑の中で赤があるといいポイントになる。そこで新たに購入したザックは赤にした。ただザックの機能と色は、必ずしも合致しない。先に書いた黒のザックも、黒を選んだわけではなくて、それしか色がなかったのだ。黒のザックは写真に撮っても目立たないが、似た仕様のザックもなくて、それを選ばざるを得なかったのだ。
 なお広島周辺のハイキングコースなどを取材する時は、両親と一緒に行くこともある。そうするとモデルの心配がいらないからだ。現在、私が連載している雑誌のハイキングガイド記事には、時々両親がモデルになった写真が掲載されている。父は毎回、冗談まじりに「モデル料はサービスしとくよ」といってくれるので助かっている(笑)。最近では先月号(2006年5月号)で島根県の赤名湿地を取り上げたが、ここでは母をモデルにした。たとえジジババでも(いや失礼!)、誰も写っていないよりもはるかにリアリティーが出る。

<<前のページ | 次のページ>>