Nature

私が取材先で体験したこと、感じたことなどを好き勝手に書いたものです。

植物記
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訪問者の立場に立った案内とは


 案内板などのわかりやすさについて不満を感じることがよくある。どうも看板を設置する側の人は、初めて来る訪問者の立場に立ってよく考えていないという気がする。その顕著な例を示したい。
 下の写真@は昨年
2005年夏、福島県北塩原村・雄国沼湿原の入口、金沢峠で撮影したもの。雄国沼湿原はニッコウキスゲ群生地として有名で、シーズン中は山麓の駐車場でシャトルバスに乗り換えてここ金沢峠でバスを降りる。カメラを構えている位置はバスが停車する場所で、訪問者はこの方向から歩いてきて湿原を目指すわけだが、峠からは湿原へ直接下る小径とは別に湿原の北側にある雄国沼休憩舎に向けて幅の広い道ものびている(下の金沢峠地図参照)。多くの訪問者の目的地はニッコウキスゲが群生する湿原だが、その何割かは湿原を散策したあと休憩舎あたりまで散策して帰るようだ。
 近年、峠には展望テラスが作られた。写真@に写っているのがそれだが、湿原へ直接下る小径の道標は付近には立っていない。写真に書き込んだ赤字で示したようにテラスの奥から道が下っている(写真@・A)が、テラスによって入口が隠され、写真@の方向から見ると道があることには気づかない。仮に道に気づいても、初めて来る人にはこの道が湿原への最短コースであることはわからない。実はテラスが作られる以前は、道標が立てられていたのだが、テラス設置に伴って撤去されたようだ。





 確かに展望テラスに設置されている地図案内板を見れば、ふたつの道がのびているのがわかるが、すべての人がそれを見るとは限らないし、そもそもテラスに立ち寄らなければ、まず間違いなく直接下る道には気づかず休憩舎方面への道(写真B)へ入ってしまうものと思われる。実際、私が観察しているとバスを降りて、前を歩く人に見習ってそのまま休憩舎方面へ向かう人が何人もいた。ニッコウキスゲが咲く湿原よりも先に休憩舎に向かう人がいるとも思えないから、やはり直接下る道には気づかなかったのだろう。

金沢峠の地図。丸数字はそれぞれの写真を撮影した位置とカメラを向けた方向。


展望テラスの奥に行くと湿原へ直接下る道があることに気づくが、ここには道標は立っていない。

テラスの手前からは休憩舎方面に続く幅の広い道がのびている。写真には進入禁止標識のついたゲートが写っているが、これは車両進入禁止のためで人は通れるようになっている。
 帰り際、シャトルバス会社の人がテラスにいたので、この点を指摘しておいた。「バス会社の人にいっても関係ないかもしれないが」と断って話したが、協議会に属しており関係ないわけでもなさそうで「貴重なご意見ありがとうございます」といわれた。よって今は改善されているかもしれない。
 同様に案内板や道標、禁止看板のわかりにくさ、というのはほかにもある。先月もある山の行ったところ登山口の道標がわかりにくくかなり迷った。結局別のコースで登頂を果たしたが、帰宅後地元役場に電話を入れて、その旨伝えた。役場の人も「あそこの道標はちょっとわかりにくいんですよ」と認識していたよう。正しいコースはその道標が立っていた場所よりも、さらに奥にあったのだ。数日後撮影のため再訪問する機会があったので見てみると、早速道標が正しい場所に移動されていた。迅速な対応は大変評価できる。
 私は基本的にこのような点に気づくと電話を入れて改善を求めている。ガイド記事を書く人間としては当然の義務だと考えるからだ。ただ看板を設置する行政側のみなさんも、現地状況をまるで知らないビジターの視線で、わかりやすいかそうでないか、というのをよく考えて頂きたい。知らない人にもわかりやすいか、主旨が伝わるか、誰もが看板の存在に気づくか…等々。現地状況を知り尽くしていると、なかなかそういう視点から物を見れないが、それによってビジターにとっても地元にとってもプラスになるとお考え頂きたい。


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金沢峠バス停から展望テラスを見たところ。このテラスの手前と奥から、それぞれ道がのびているが、奥に道があることはここから見る限り気づかない。