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山岳地における携帯電話 新潟県・奥只見湖畔など

撮影年月日:2009年10月7日

 最近は遭難救助要請に携帯電話が用いられることが多くなってきているという。昔はアマチュア無線が利用されていたことを思うと、隔世の感がある。一方で、携帯電話を利用した安易な遭難救助要請も見られるようだが、このようなモラルゼロの登山者は、遭難救助を要請する資格どころか、山に来る資格もない。明らかに安易な要請には、ヘリコプター運航費などを請求するなど断固とした姿勢が必要ではないか。

 ところで本来、ほとんど通話エリア外である山岳地だが、見通しのいい山頂や稜線では、通話エリア外でも通話できることは意外と多い。そのため万一の時だけでなく、山頂から家族に報告の電話を入れたり、下山口にタクシーを呼んだり、携帯電話を持参し利用する登山者は多いようだ。

 一時、「山と渓谷」誌などの山岳雑誌でも、北アルプスなどの有名山岳地における携帯電話の通話可否状況を調べた特集が組まれたこともあるが、その後同様の企画が継続されなくなった。おそらく情報を集めてみたところ同じ携帯電話会社でも機種によって通話可否にかなりの違いがあるので、そんなことしても無意味という認識が広がったのではないかと想像するが、私は必ずしもそれは正しくないと思う。いや、確かに同じ携帯電話会社でも機種の違いによって通話可否に影響がまったくないというのは間違いだが、一般に思われているほどの違いはないと思う。私がある携帯電話会社に確認したところ、機種による電波の送受信能力の違いはごく小さなもの、ということだった。もちろん、その小さな違いが通話の可否を左右することもあろうが、一般に思われているほど大きな違いではないのだ。むしろその能力の違いは電波を補足するまでの時間の長短を生む程度のことではないか、と私は想像している。
 このような認識が広がった背景には次のようなことがある気がする。私が山頂などでほかの登山者の様子を観察すると、アンテナが立っていてもなかなか通じなかったり、あるいは「圏外」表示だったりすると、すぐに通話できないと諦める人が多いということだ。ところが実際には、しばらくかけ続けていると通じることもあるし、山頂の西側は通じないが東側ではクリアに通じるといったことも実際にある。一般の登山者はそこまで検証せず、その場で携帯をかけてみて、ダメならすぐにこの山頂は通じないと判断していることも多いのではないか。それが山岳地の携帯電話通話可否に関して結果に差を生んでいるのではないか。
 私はかつて自著の中に携帯電話通話可否情報を掲載したことがある。この時の調査の経験からいえば、次のようなことがいえると思う。

@通話が不安定もしくは圏外の時、場所を数メートル移動するだけで、電波状況が改善して通話できることがある。最も極端だったのは座ると圏外だが、立つと通じたこともあった。
Aはじめ「圏外」表示が出ても諦めずに2度3度電源を一旦切ってからかけ直すと、通じることがある。また機種や状況によってはアンテナが1〜3本立っていても電波を補足するまでに数分程度の時間を要したこともあった。もちろん、このあと通話はできた。
B電波状況は気象条件などにより影響を受けるのは間違いないが、とはいえ、私が何度か同じ場所で比較した例では、大差はなかった。1度目はクリアだったが、2度目はやや不安定というくらいのことで、私が比較した中では極端な違いはなかった。

 つまり、そういう点を充分に配慮して携帯電話の通話可否を調べているとは限らない一般読者からの情報はあてにならないといえるが、その点を配慮した調査をすれば、ある程度信頼できる情報が得られるということだ。もちろん、その情報を利用する側も上記のような山岳地における携帯電話の特性を認識しておく必要があるのはいうまでもない。
 ただ今後、新たな会社も携帯電話事業に参入してくるのに加えて、第2世代携帯電話から第3世代携帯電話への移行も進み、すべての携帯電話の通話規格に沿った調査が難しくなるのは間違いないだろう。

 
 
山間地に立つ携帯電話基地局。兵庫県福崎町・七種山山麓の基地局(左)と長野県木祖村・やぶはら高原の基地局(右)。

 
山岳地の道路では、稀に携帯通話可能ポイントを知らせる看板が立てられていることもある。新潟県魚沼市・奥只見湖畔の国道沿いに立つ「携帯電話通話可能」看板(左)。「林道耳より情報」としてドコモ携帯が通話可能であることを示す看板。兵庫県宍粟市・峰山広域基幹林道にて(右)。

NEW

登山コース上の携帯各社の通話状況や、非常時にメールや画像を送りたい場合の送信先アドレスを案内する看板。確かに遭難や怪我をした場合に画像を送ることができれば、好都合な場合も多々ありそうだ。例えば、道に迷った際にスマホのGPS機能による現在地地図表示や緯度経度情報画面を、別の同行者のスマホで撮影して送ることができれば、すみやかな情報伝達や救助活動に役立つ。こうしたアドレス情報まで掲示してある山は滅多にないが、よい取り組みだと思う。広島県大竹市・三倉岳登山口で。


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