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 これって正しい? その2
「山や自然を生業にしている人は、
みんな無条件でレベルが高い」

(登山ガイド・尾瀬ガイド・ネイチャーガイド編)
 大いに疑問


 みなさんは、登山ガイドや尾瀬ガイド、ネイチャーガイド…と聞いてどんなイメージを持っているだろうか? 彼らは、山や自然という場で仕事をする人たちであり、なんとなく自分よりもスゴそう。自分よりも知識も技術も高そう。…そう思っている人が大半だろう。実は彼らに限った話しではなく、いうまでもなく山や自然を生業にしている、すべての人が、山や自然に関連する全分野に高い知識を有しているわけではもちろんない。にも関わらず、一般にはそんな勝手なイメージで見られがちである。このことは、今後の自然環境保全のあり方を考える上で、あまり好ましくないので、その実態を少し指摘しておきたい。


◆彼らは無条件でスゴイのか?

 その答えは、登山ガイドだろうと何だろうと「人による」。これに尽きる。屋久島でガイド派遣会社を営まれている代表者が書かれた本を以前、読んだことがあるが、専門家並みの深い知識をお持ちで、その内容に舌を巻いた。こういうスゴイ人も実際にいらっしゃる。でも勝手な想像だが、この方の会社に所属するガイド全員が同レベルというわけでは、もちろんないだろう。決して、それを問題視するつもりはないが、そういう事実を頭の片隅にちょっと置いておきたい。

 そもそも登山ガイドといっても登山技術に優れた人もいれば、動植物に詳しい人や歴史に詳しい人もいる…といった具合に人によって得意分野と不得意分野があるのは、当たり前。もし、あなたが、花のことよりも、その山の歴史を詳しく知りたい場合。歴史を得意とする登山ガイドに同伴してもらえば、充実した山旅になるだろう。このことは逆にいえば、ガイドだからといって、関連分野すべてに詳しいわけではないということであり、いかにも格好いい職業ネームでまとめられるからといって、無条件に「権威に近いもの」とみなさない方がいいし、ガイドの方ご自身もそんな風に勘違いされない方がいいと思う。


◆スゴくない登山ガイド

 かつてトムラウシで、下山中に登山ガイドと引率する客がバラバラになり、それに対して何かをするわけでもなく、登山ガイド自ら、先にさっさと下山してしまい、死者が出た遭難があった。登山ガイドに求められる最も重要な要素は、客を安全にガイドすることにある。何か緊急事態に遭遇しても冷静かつ的確に状況判断し、客を無事に下山できるように最善を尽くすのが、登山ガイドの使命である。だから、これに関していえば、もはや完全に論外。事故というよりも、事件といっていいかもしれない。登山ガイドを標榜する資格もないし、こういう人物が登山ガイドをしてはいけない。

 この件は論外中の論外だが、山で偶然、遭遇した登山ガイドご一行様の「ほかの一般登山者に対する配慮のなさ」に呆れたことは何度かある。自分と自分の客のことしか見えていない…みたいな登山ガイドは割といる。

 以前、ある山の自然保護団体のサイトを閲覧したところ、NHKの『日本百名山』で登山ガイドが紹介した花の名前に対して反論が書かれていた。どうやら、その登山ガイドは、番組中に不正確な花の名前を何度か口にしてしまったらしい。その記事には、「NHKは、専門家にも監修を依頼しているはずなのに、どうしてこんな間違いが見落とされるのだろう?」みたいなことが書かれていた。
 この自然保護団体の、種名に関する指摘は正しいと思うが、おそらくNHKは、別途、専門家に確認するようなことはしていないと私は思った。つまり、NHKですら視聴者と同様に、「登山ガイドも専門家のうちに入る」と誤解しているというわけ。念のためいっておくと、NHKではこれまで何度か百名山シリーズを制作しているため、この指摘が、どの番組を指すものかは不明だ。
 国内すべての登山ガイドが、専門的見地から完璧な案内をしているわけがなく、本当に高いレベルの知識を有している人は、ごく一部だけ。ほとんどの登山ガイドは、誤認することも当然あるだろう。それは、真の専門家ではないのだから、ある程度は仕方ない。逆に言えば、登山ガイドの言葉を神の声のように聞くのも、あまり好ましくないことを意味する。


◆スゴくない尾瀬ガイド

 私の勝手な印象だが、尾瀬でたままた遭遇する尾瀬ガイドの中には、ちょっと偉そうにしている人がいる。すべての尾瀬ガイドがそうだというわけではないし、表だって口にするわけでもないのだが、まるで「オレは、尾瀬を知り尽くしているんだぞ」「それに比べて、おまえらは何もわかってないだろ」みたいな意識が垣間見え、一般の尾瀬ハイカーを一律で何も知らない素人だと決めつけて、自分の客以外のハイカーにも、別にマナー上の問題があるわけでもないのに上から目線で指図する…みたいな人が実際にいる。

 でも、失礼ながら、尾瀬ガイドといっても、自然や生態系、あるいは生物学全般について大学で学んだこともない人がほとんどだろう。尾瀬を歩いている一般ハイカーの中には、生物系学部出身者もいれば、時には動植物や湿原の研究者だっている。彼らも見かけ上は、一般ハイカーのようにしか見えない。それなのに一律で一般ハイカーをひとくくりにして色眼鏡で見て、自分たちこそ尾瀬の権威であり、自分たちこそ尾瀬の自然を一番理解している、と思い込んでいるのは、お笑い以外の何ものでもない。

 昔、尾瀬沼で尾瀬ガイドと立ち話をした際、「この人は、湿原の定義もよくわかっていないのではないか」と感じたことがある。風貌だけは髭面でご立派だったが、中身は伴っていないようにしか思えなかった。花の名前みたいなことには詳しいだろうが、湿原の定義も理解していないことから考えると、おそらく科学の素養のカケラもお持ちではないだろう。

 また、以前、ある尾瀬ガイド派遣会社のサイトを見て、ものすごく驚いたことがある。そのサイトには、尾瀬の花図鑑があるのだが、その中には何と食べ方のような利用方法の欄まであった。そもそも尾瀬では植物を採取できないのだから、この記載はどう考えても不要である。
 さすがに「尾瀬では動植物の採取は禁止」ということは当然知っていると思うので、あくまで「一応、食べ方も書いておくげと、採取するのなら尾瀬以外で採ってね」ということだろうとは思うが、尾瀬のサイトに載っていれば採取OKと誤解する人も中にはいると思われる。
 しかも、ミズバショウのページを見て、さらに驚愕。そこには信じられない一文が載っていた。「ミズバショウは、バショウのなかま」。うーん。あの〜科からして違うんですけどね。こんな低レベルなことを平気で書く人たちが、尾瀬で金を取ってガイドをしている!? 私が客なら、こんなガイドに金を払うのは、まっぴら御免である。


◆スゴくないネイチャーガイド

 以前、雑誌の仕事で、複数のネイチャーガイドに電話取材したことがある。必要最低限のことしか聞かなかったこともあって、ほとんどの人は特に違和感はなかった。それでも実態としては「人による」だろうが、あるネイチャーガイドに、ある質問をした時の回答内容のショボさから「あー、この人に科学知識はほとんどないだろうな」と感じた。具体的なことを書くのは控えたいが、この時の経験から、ネイチャーガイドという職業の人すべてが、その職業ネームから受ける印象通りに自然に精通し、科学を理解しているわけではない実態が完全に垣間見えてしまった。

 たぶんネイチャーガイドにそれほど高いレベルを要求しても意味はないのだろう。派遣会社によっても姿勢は異なるかもしれないが、現地情報に詳しく、ある程度の動植物の同定能力があり、あとは自然に関するトリビア情報みたいなことをわかりやすく、おもしろく客に説明できることの方が重要なのだろう。それ以上のレベルがたとえあっても役には立たないものと想像される。なぜならネイチャーガイドの同伴を希望する客自身のレヘルも決して高くなくて、高くないからこそ、ネイチャーガイドの同伴を依頼するはずだからである。

 これは、すべてのガイドにも共通することだが、需要に応えて一定以上の利益さえ得られれば、それでOKということなのだろう。当たり前といえば当たり前の話しである。でも、だからといって、そうした職業ネームでまとめられる彼らを一律で自動的に「権威に近いもの」とは見なさない方がいいし、ご自身もそう勘違いされない方がいい。あなた方よりもレベルが高い人は、国内にいっぱいいますよ。




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