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トレース 中央アルプス・千畳敷

撮影年月日:1994年12月17日

 トレースとは、人の踏み跡のことだが、登山用語としては雪山以外で使うことはほとんどなく、「雪面に残された登山者の踏み跡」とほぼ同義といってよいだろう。
 トレースがあれば、ラッセルする必要がなく、体力的にかなり助けられる。一方で最初にトレースを付けた人は労力を使うばかりで、損な役回りともいえる。ただ、最初にトレースを付けた人が、その山に精通していて正しいルートを選んでいるとは限らず、そうでなくとも目的地が異なる場合もあるので、よく見極める必要がある。

 また冬期は本来の登山道が積雪で隠されてしまうわけだが、それでも人気がある山では正しいルートにトレースが付けられることが多く、しかも頻繁にトレースが繰り返されるので新たに降雪があっても問題が生じることは少ない。

 一方、登山者が少ない山は、トレースされる頻度も少ないのでリスクが高い。積雪が多い時よりも、むしろ積雪がない時や少ない時の方が危ないこともある。例えば、こんな状況を考えてみてほしい。
 初めての山に登ることになった。ほかの登山者は皆無。登山道に雪はなく、あってもうっすらと雪化粧している程度。無事に予定のルートをたどり山頂に立ったが、下山の最中、短時間のうちに10センチの降雪があった。10センチでも場所によっては完全に登山道が隠れる。降雪量がもっと多ければ、登山道の判別はより困難になる。たとえ往路を戻るコース設定だとしても、登山道が完全に隠れてしまうとルートを見失う可能性がある。切り土などの地形から登山道の位置がおおよそわかる場合もあるが、平坦な場所ではわからないことも多い。登る時に雪がなかったことが、かえってトレースという印さえ生じないので危険なのだ。

 むしろ、ある程度の積雪量があれば、ラッセルしてトレースを付ければ、積雪量が多いだけに深い踏み跡が残り、それが短時間のうちにすべて隠されてしまうほどの降雪は稀と考えられる。積雪量が多ければ時間もかかり、ケースバイケースではあるが、単純に「積雪が少なければリスクも少ない」ともいえないのだ。



中央アルプス・千畳敷と乗越浄土を結ぶ八丁坂は、夏であればお花畑の中に続くつづら折の登山道だが、冬期はそんなものを完全無視して直登のトレースが付いている。


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