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山で困ったこと3 北アルプス・三股

撮影年月日:1994年11月27日

 1994年11月26日の土曜日。私は北アルプス・蝶ヶ岳から真っ白い穂高連峰の写真を撮りたいと思い、日帰りでピストンをかける計画で、蝶ヶ岳の登山口・三股へ向かった。晩秋なので積雪も少なく、林道奥の三股まで車で入って雪山を楽しめる絶好のチャンス。しかも、うまい具合に天気もよく、いやが上にも期待が膨らんだ。山麓にはまだ紅葉が残っていたが、林道を奥へ入るともう完全に冬景色だ。

 三股の森は純白に輝き、登山に来ていることも忘れて、しばらく樹氷の森の撮影にいそしんだ。その時の写真が、壁紙ギャラリー「北アルプス・樹氷の森」なのだが、ひとしきり撮影を終え、ようやく準備を整えて登山開始。
 ところが、そのわずか1分後のこと。まさかまさかの予想もしない事態に見舞われた!! な、なんと普通に歩いている途中、冬山用のプラ靴が、瞬間的にパッカリと割れたのである。その割れっぷりといったら、逆にプラ靴を褒めてやりたいくらいの、あまりに潔いものだった(笑)。割れるにしても、ちょっとくらいは躊躇しながら割れてほしいのだが、そういう私の希望は完全に無視されたのだった。

 予備登山靴を車に積んでいないので、この時点で登山計画は完全にフイになってしまった。あ〜あ、高速道路代とガソリン代使って、わざわざ長野まで来たのに…。でも、登山道に入ってすぐのことだったので、むしろ幸運といわなければならないだろう。プラ靴なりにがんばってくれて、「もう限界!」とパッカリ割れたのが、登山口から徒歩3時間の場所だったらと思うとぞっとする。冬山用のプラ靴は二重構造になっているので最悪、レザー製のインナーだけで歩くことも可能だが、ソールがないので滑りやすくて危険。そういう事態は極力避けたい。

 割れ方から考えると、経年劣化が原因なのは疑いようがなかった。プラ靴というのは、スキー靴と同じでプラスチック樹脂で作られており、革靴よりも防水性が高くメンテナンスも簡単に済むという利点は大きいが、樹脂が加水分解して経年劣化を起こすという欠陥がある。そのことを知らなかったわけではないが、予想を超えて早くその時がやってきたというわけだ。
 仕方ないので、そのまま帰途に就いたが、荘厳なはずの穂高連峰を目の前にして敗退したのに我慢できず、翌日曜日に別の革靴を積んで再度出かけた。1日目ほど天気がよくなく、しかも当時住んでいた世田谷から長野県堀金村(現・安曇野市)まで往復した翌日ということもあって、やや疲れが出て、思うようなタイムで登れず途中で断念。結局、常念岳を望んだだけで往路を戻った。

 ちなみに近年は、経年劣化を起こすという致命的欠陥が問題視されるようになったのだろう、冬山用プラ靴を見かけなくなった。最近では、レザー&ゴアテックス製になるなど、さらに進化しているらしい。このあとに買い換えたプラ靴は、その後しばらく使ったあと、ほとんど使わなくなった。今もまだ保管してあるが、仮に冬山に行く計画を立てたとしても、劣化を考えると恐ろしくて使えない。




肝心の割れたプラ靴の写真はないので、代わりに2日目リベンジの写真を少々。うっすら雪化粧した三股の駐車場。当時は砂利敷きだったが、現在は舗装されている(左)。登山口に立つ登山指導所。現在はない(右)。


登山道途中で撮影した記念写真。




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