反り返った花びらがチャームポイント
カタクリ
ユリ科
Erythronium japonicum
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カタクリは、ミズバショウと並ぶ代表的な早春の花。落葉樹林が葉を出す前に花をつけて受粉をすませ、ほかの植物が繁る頃にはもう姿は見えない。早春季植物とも呼ばれるスプリングエフェメラルのひとつである。つまり夏や秋に花をつける植物に対して、子孫を残すための戦略として短期決戦を選択した植物といえる。
花は寒い時は閉じているが、気温が上がると、花びらを開き反り返らせる。なぜ気温が低いと閉じるのか。それは気温が低いときは雨が降っていることが多いことから雨で花粉が流れ落ちないように閉じているのではないか、という説もある。気温が低いと訪花昆虫の活動は鈍くなるから、仮に花を開いても昆虫が訪れてくれる可能性は低い。それなら雨で流されるリスクをとってまで花を開く必要はないということなのだろうか。
カタクリは全国に分布し、特に北国には見事な群生地が多い。中でも秋田県西木村にある「カタクリ群生の郷」は見事なもので、面積は計２０haにも及び、その密度は相当なもの。また北海道旭川市の突哨山の群生地では、十年ほど前にゴルフ場計画が持ち上がり、一時存続が危ぶまれたが、その後、保護運動によって旭川市と隣接する比布町が公有地として群生地を買い取り保護されることが決まったという。しかし西木村や突哨山の群生地のように保護されている場所は、むしろ幸運な方である。各地の群生地の中には、訪問者に対する取り組みが何もされていないために踏み荒らしが進み、年々群生の規模が縮小しているところもある。
ところでカタクリは種子から芽生えた年にすぐに花をつけるわけではない。毎年少しずつ栄養を蓄えて、花をつけるようになるまでに何と７～８年もかかっている。それだけにカタクリの花には惹きつけられる魅力があるのだろう。
果実は蒴果で、裂開すると中から種子が散る。種子にはエライオソームと呼ばれる部分があり、ここにはアリが好む脂肪酸などが含まれ、アリが巣の中に運んでやがて芽を出す。アリを利用した種子散布戦略というわけだ。名前は古名のカタカゴ(傾いた花を篭にたとえて傾篭)に由来。ところで昔は、鱗茎からデンプンを取り出し、これが本当の片栗粉だった。ちなみに現在市販されている片栗粉はジャガイモから作られている。
まさに春の山に燃ゆる「かがり火」のようだ。北アルプス・白鳥山。
日光をいっぱい浴びて花びらを反り返したカタクリ。広島県安芸高田市（左）。クリ畑を覆うカタクリ群生。秋田県西木村・カタクリ群生の郷（右）
芽生え（左）。花芽を立ち上げたところ（中）。寒い日には折りたたんだ傘のような姿に（右）。ちなみに、この３点の写真に写っている葉には斑紋があるが、個体によってないものもある
花にはこんな模様がある（左）。子房を切断してみた。中には種のもとになる胚珠が並んでいる（中左）。葯のアップ。表面に付着する花粉がよく見える（中右）。果実は蒴果。花からは想像もできない形をしている（右）
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