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鱗茎の食用目的で3倍体が持ち込まれた?
オニユリ
ユリ科
Lilium lancifolium
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 ユリ科ユリ属の多年草。日本では北海道から九州の人里周辺に見られる。高さ1~2メートルになり、茎の上部には白い綿毛があるが、のちに落ちる。葉は長さ5~15センチの披針形~広披針形で互生し、先はとがり、柄はなく、その基部に黒紫色の珠芽(むかご)を作る。7~8月に茎上部に直径10センチほどの橙赤色の花を数個、多い時は20個も付け、横向きか下向きに開く。花被片は反り返り、紫褐色の斑点がある。

 ちなみに珠芽とは、脇芽が肥大したもので、植物の繁殖手段のひとつ。つまり種子と同じように珠芽が地面に落ちると、新しい個体になる。ただ種子が有性生殖の結果できるのに対して、珠芽は無性生殖なので、そこから成長した個体も親と同遺伝子ということになる。

 本種に関して、いろいろ調べると、各資料によって記述が微妙に異なり、Wikipediaでは「グアム東部、中国、朝鮮半島、日本に自生する。日本では北海道から九州の平地から低山で普通に見られ、一説には中国からの渡来種と言われている」とある。しかし『神奈川県植物誌』(神奈川県立生命の星地球博物館)では「中国原産の園芸植物」と断定しており、ほかの一般向きの図鑑でも「古くから栽培され各地で野生化している」とするものが多く、少なくとも自生前提の解説はほとんどない。果たしてどちらが正しいのだろうか。

 Wikipediaでも触れている「日本のオニユリのほとんどが3倍体」というのは重要な点だと思う。3倍体なので種子ができず珠芽で増える。通常の2倍体がほとんど存在しないということは、自生種ではなく、ヒガンバナと同様に原産地でたまたま生じた3倍体だけが、選択的かつ人為的に持ち込まれたのではないか。鱗茎が食用になることは、要素として大きいはずだ。倍数体は2倍体よりも大型化する傾向があることが知られており、そのしくみは今のところ未解明のようだが、地上部にとどまらず食用になる鱗茎も同様に大きくなるとしたら、3倍体だけが選ばれた理由も納得できる。

 実は長崎県北部の海岸や平戸島、対馬、さらに済州島や朝鮮半島には結実する2倍体があり、もしかすると、このあたりが原産地なのかもしれない。長崎県本土の2倍体が自生なのか、そうではないのか気になり、何か記述がないかと『長崎県植物誌』(長崎新聞社)を開いてみたが、種名とごく簡単な解説のみで、詳しいことは書かれていなかった。

関連情報→本サイト植物記「コオニユリ




青森県つがる市の平滝沼畔で見かけたオニユリ。平滝沼には湿地も広がり、そこでは自生種も見られるが、本種が生えていたのは畑の近くで、栽培品に由来する可能性が高そう。ただ、いずれも花が多数付いて立派な株だった。



平滝沼近くにあるベンセ湿原に咲いていたオニユリ。上の株と比べれば、貧弱で、珠芽がなければコオニユリと間違えそうである。



その葉脇に付いていた珠芽を拡大。



我が家で栽培しているオニユリの花。葯には暗紫色の花粉がびっしり。



  
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