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主にマメ科植物の根に生じる
根粒

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 マメ科植物のフラボノイドに誘引されて根粒菌が根に取り込まれると、そこに瘤状の組織が生まれ、これを根粒(根瘤とも書く)と呼ぶ。根粒菌は、複数の属にまたがるグラム陰性の微好気性桿菌(微量の酸素濃度を好む細長い棒状の細菌)で、土壌中で単独でも生存できるが、根粒中で植物と共生することもできる。後者の場合は顕著な窒素固定を行い、大気中の窒素を取り込んで植物が利用できるようにアンモニアに変えて植物に供給し、植物からは有機物を受け取って生活している。つまり植物との間に相利共生関係が成立している。またマメ科以外のハンノキやドクウツギ、ヤマモモなどの根で共生する放線菌も根粒を作ることが知られている。

 昔は、よく田植え前の田んぼにマメ科のゲンゲ(レンゲソウの標準和名)が一面咲いていたのを覚えている人は多いだろう。これは農家がわざわざ種子を撒いて育て、根粒によって大気中の窒素を肥料として田んぼに取り込むために行われていたもの。こうしたゲンゲの緑肥としての利用は近年、さまざまな理由からどんどん減っているが、かつては肥料代わりになる根粒の有効利用方法だったわけだ。

 今回、記事を書くにあたり、私が大学生の時に大学生協で買い求めた『岩波 生物学辞典 第3版』(岩波書店:1983年)の「根粒」「根粒菌」の項目に目を通すと、「根粒菌はマメ科植物の根に寄生する」意味のことが書かれており、どういう理由で「寄生」という用語を使っているのか、一瞬理解できなかった。寄生って、一方の生物がもう一方の生物に栄養とか生息場所とかの多くの部分を頼る生き方を指すので、もしかすると当時は根粒菌が植物に提供する窒素分よりも、植物が根粒菌に提供する有機物の方がはるかに利益としては大きいと考えられていたので「寄生」という用語を使ったのかな? と想像してみたりしたのだが、本当のところはわからない。『岩波 生物学辞典』の執筆者が、寄生と共生を間違えるような凡ミスをするとは思えないので、故意に「寄生」を使っていると推測するのだが、私の方が、何か見落としているのかなぁ。



昨年秋、畑に植えた落花生を収穫した際。根に生じたおびただしい根粒に目が止まり、マクロストロボで撮影してみた。Wikipediaによると、マメ科の根粒には2種類あり、落花生の場合は根粒自体に分裂組織はなく、根粒菌に感染した細胞が分裂して肥大生長する有限型根粒と呼ばれるタイプで、通常は球形になるそうだ。



かつては田植え前の田んぼの風物詩だった一面のゲンゲ(レンゲソウ)。窒素固定の緑肥として育てられたものだが、最近はあまり見なくなった。神奈川県綾瀬市。撮影は2000年。



  
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植物記