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タケノコは人気の山菜
チシマザサ (ネマガリダケ)
タケ科

Sasa kurilensis

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 イネ科ササ属に分類される笹のなかまだが、千島列島で見出されたことに因むチシマザサという標準和名よりも一般にはネマガリダケという山菜名の方が、よく知られている。鳥取県・大山以東、日本海側の標高700m以上の山地に群生する。

 稈長は1~3メートル、時に4メートルにもなることがあり、直径も1センチと太い。しかも耐寒性があり、積雪に対しても強い性質を持ち、日本のササ類の中で最も北に分布している理由も納得できる。稈の基部が平坦地でも傾斜地でも弓状に曲がり、その後立ち上がる。このことから「根曲がり竹」と呼ばれるようになったが、地方ごとに「ジダケ」や「スズコ」、「アズマタケノコ」など、さまざまな地方名でも知られる。

 全体に無毛で、枝先に5~8枚の葉を出す。葉は長さ20センチ、幅5センチほどもあり、大きくて厚い。表面は緑色だが、裏面は灰白色で白い葉脈が目立つ。肩毛(けんもう。ササ類をはじめイネ科植物の葉の付け根にある毛状のもの)はない。

 5~6月頃に収穫できるタケノコは甘みがあり、新鮮なものはアクが少なく、アスパラガスにも似た食感と風味があって、非常においしい。天ぷらにしたり、煮物や鍋に入れたりと、大変人気が高い山菜といえよう。そのため群生地ではシーズンになるとタケノコ採りで来た車が道路沿いに列になるほど停まっていたりする。特にモウソウチクがない東北地方では、タケノコといえば本種を指す。



山中に広がるチシマザサ。密度の高い深い藪となり、タケノコ採りは至難の業。大変な重労働といえるが、それでも人々はタケノコを求めて藪に入る。山形県山形市・蔵王中央高原。


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チシマザサやクマイザサのような積雪地に分布するササの場合。丈は、積雪の深さとおおよそ一致するという。つまりササの丈を見れば、その場所の積雪の程度がわかるそうだ。これには理由があり、氷点下になる外気温と比べれば、雪の中は温かいので冬芽が越冬できるからだとか。群馬県嬬恋村の、この撮影地では、これくらいまで雪が積もることになる。


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タケ類やササ類は、数十年から100年以上ともいわれる長寿で、最後に開花して枯れるため、一定の開花周期があり、例えばスズタケは120年周期だといわれる。チシマザサは約60年周期とされ、それでもヒトの人生で一度きりくらいの極めて珍しい事象のように思えるが、遠く離れた場所でも申し合わせたかのように一斉開花することもある一方で、小規模な範囲だけで開花することは頻繁にあり、開花個体を見かける機会は、十分にあり得る話。私も過去に開花したササを山で割とよく見かけた。そのため「本当にササの開花は数十年に一度だけなのかな」と疑問に感じていたほどだ。一斉開花後は、一斉に枯死するが、中には生き残る個体もあるらしい。写真は1995年6月に会津駒ヶ岳で遭遇した花をつけたチシマザサ。


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チシマザサの花。この花は葯から花粉が出ていない段階だが、花粉が出てくると葯が黄色く見える。吾妻連峰。1998年6月。


同じ蔵王中央高原で見かけた「タケノコ採りをする人」。右手に見えるのは登山道なので、これくらいであれば迷うことはないだろうが、夢中になって奥へ入り過ぎると、深い藪に視界を阻まれ、自分がどこにいるのかさえわからなくなる。あらかじめ家でオフライン地図データをダウンロードした上で、現地ではスマホの電源を切って藪に入り、いつでもスマホで位置情報を確認できるようにしておくと安心(左)。タケノコ。生え際を左右に倒したり、ひねったりすると、簡単に折れる。採取後、先端から1/3を山菜として利用する。岡山県西粟倉村(右)。


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アスファルトを突き破って出てきたチシマザサのタケノコ!? おそらく、ここは元々アスファルトが薄くて、チシマザサ地下茎の成長に伴って割れ目ができ、その弱い部分からタケノコが伸びてきた、ということだろうと想像する。福島県・土湯峠。



採集したネマガリダケ。モウソウチクのタケノコよりもおいしい。



  
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