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生食できるブドウの野生種
ヤマブドウ
ブドウ科

Vitis coignetiae

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 ブドウ科ブドウ属の落葉つる性木本。ブドウといえば、世界中で多くの品種が作出されてきた果樹だが、本種は日本に自生するブドウのなかま。北海道、本州、四国の山地の林縁に生え、巻きひげでほかの木などに巻きついて覆い隠すほどに広がる。葉は長さ10~30センチの五角状の心円形で浅く3裂して先は尖る。互生し、長い柄をもつ。

 雌雄異株で、6~7月に円錐花序を出し、地味な黄緑色の小花を多数つける。9~10月に径8ミリほどの液果となり、やがて暗紫色に熟し、表面には白い粉が覆う。栽培種ほど果実が大きくないが、生食するほか、果実酒やジュース、ジャムなどに加工したりもする。酸味が強く、「生食には向かない」とする資料もあるが、一般的な栽培ブドウ品種に比べて、ビタミンや鉄分、ポリフェノールなどの成分が豊富とされる。

 ちなみに日本固有の栽培ブドウ品種として、古くから山梨県で栽培されてきた甲州種がある。平安時代末期に甲斐国に住む人が山ブドウとは異なるブドウを見つけて庭に植えたのが始まりとの伝承もあって、それほど古くから栽培されてきた経緯を踏まえると、日本在来種との交雑種のようにも思える。しかし近年のDNA解析によると、コーカサス地方で生まれた品種V. vinifera がシルクロードを経て中国の野生ブドウと交雑し、さらにV. vinifera と交配して生まれたハイブリッドである可能性が高いとされる。古い時代に中国で生まれた甲州種の種子が直接か、あるいは朝鮮半島経由で勝沼に持ち込まれたのだろう。ただ、現在の中国や朝鮮半島には、甲州種と一致する品種はないとのことだ。

 「ちなみに」以降の参考文献。①独立行政法人酒類総合研究所:‘甲州’ブドウのルーツを解明-DNA 解析から、中国を経由して伝えられたことを証明-(2013)。 ②後藤奈美:DNA多型解析による甲州の分類的検討,日本醸造協会誌第106巻第3号,116-120(2011)。


 写真は広島県北部の山で見かけたヤマブドウ。少し早かったが、熟して食べごろのものもあった。


9月上旬のヤマブドウは、まだ果実が若い(左)が、ブドウ色に熟した実もあった(右)



独特な形をしたヤマブドウの葉。灌木に巻きついて、表面を覆っていた



  
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