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あまりに出来すぎた偶然で遭遇
カモメラン
ラン科
Galearis cyclochila
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 ラン科ハクサンチドリ属(カモメラン属)の多年草。別名・カモメソウ。北海道、中国地方以北の本州、四国に分布。山地帯~亜高山帯の湿った林床や林縁、草地に生育する。漢字で書けば「鴎蘭」で、花を鳥のカモメに見立てたともいわれるが、別の説もあるらしい。
 高さ10~20センチ。長さ4~6センチの広楕円形の葉が1個根生する。5~7月、茎頂に淡紅色の花を通常2個付け、長さ約1センチの唇弁は浅く3裂し、赤紫色の斑点が多数ある。距は長さ8~10ミリで後方に突き出す。花の基部には狭長楕円形の苞がある。

 本種の自生地情報は割とあって、私自身、以前から栃木県1、山梨県2、長野県1…計4ヶ所の、しかもピンポイントでの位置情報を知ってはいた。例えば、栃木県の情報についていえば、6年ほど前に同県内の某山で立ち話をした年配の男性登山者から「カモメランは○○山のどこそこにある」と教えてもらっていた。話しの内容もさることながら見るからに登山歴が長そうな山のベテランといった感じの方で、その山系に精通されているようだった。
 実は、その時もあるランを撮影している最中で、それがきっかけとなって話しかけられ、カモメラン情報につながったわけだが、教えて頂いたのは、かなり正確なピンポイント情報。従って花期さえ合えば、ほぼ確実に目にできそうだった。ただ、歩行時間がそこそこかかることもあって、なかなか実行に移せないままだった。一方、山梨県内の自生地は比較的容易に行ける場所にあり、今回の取材のついでに立ち寄ってみようと思っていたのだが、取材候補地を結ぶコースから少し外れているため、無理してでも行くべきか、それとも来年以降にのばすか…と迷っていた。

 そんな取材4日目。取材候補地のひとつ、岐阜県某所に向かうことにした。初めて訪れる場所だが、訪問者も稀らしく、どちらかというと自然度が高そうな雰囲気。いかにもランが自生していそうな場所なのだ。なので「もし、ここにカモメランがあれば、無理して山梨県内の自生地に行く必要はないのだが…」とちょっと頭に浮かんだものの、「そんなに都合よくカモメランがあるわけないよな~」とすぐに打ち消して、とにかく歩き始めた。急斜面を下って目的地に到着。撮影しようとザックを道端のスペースに置いたところ、ザックの右手15センチほどの場所に小さなピンク色の花があるのに目がとまった。「ん? なんの花だろう」と目を近づけて仰天した。えーっ!! なんでここにカモメランがあるんだ~!!!!!!。

 これを読んだみなさん。そんなに出来すぎた話があるわけがない…とお思いでしょうが、ウソも誇張も一切ない100%実話ですよ。私自身、「ここにカモメランがあるわけねぇよな~」→「ウソだろ。本当にカモメランがあった!」という極めて稀な経験を自分がすることになるとは想像もしていなかった。ほかのありがちなランなら、十分にあり得る話し。でもカモメランだからね。スゴイ偶然。いや、やっぱり日頃の行いがいいと、山の神様が、こういうご褒美を下さるのだろうね(笑)。

 最初の一株は、開花に少し早い印象だったが、道の両側に計15株ほど生えていて、いずれもベストな状態。いうまでもなく夢中で撮影した。誰もいない山の中で至極のひとときを過ごし、気がつくともう2時間も経過。本来の目的も果たし、今日の幸運を改めて山の神に感謝しつつ帰途に就いた。



岐阜県内某所で偶然に遭遇したカモメラン。この気品に満ちた姿を見よ! 園芸植物がどんなに華やかで派手でも、この気品には勝てないだろう。それにしても人間を夢中にさせるランの力って、スゴイものがある。



唇弁に入る斑点模様が見事。付近に自生するすべての株には、花が2個付いていたが、複数の図鑑を見ると花が3個付いた株も割と写っていて、それも珍しくはないのかもしれない。



  
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