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高層湿原の指標植物
ヒメシャクナゲ
ツツジ科
Andromeda polifolia

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  ツツジ科ヒメシャクナゲ属の常緑矮小低木。本州中部地方以北と北海道に分布。世界的に見ると周北極地方に広く見られる。高層湿原(ミズゴケ湿原)の指標植物で、主に亜高山帯~高山帯の高層湿原に生えるが、至仏山では礫地にも生えているらしい。

 茎は、湿原上を這って所々に根を出し、上部は斜めに立ち上がり枝を分けて、高さ5~20センチになる。葉は長さ2~3センチの長楕円形または広線形の革質で、縁は裏側に巻き込み、裏面は粉白色を帯びる。
 6~7月に枝先に散形花序を出し、3~8個の淡紅紫色の花を下向きに咲かせる。名前には「シャクナゲ」とあるが、シャクナゲというよりもドウダンツツジを思わせる、長さ約5ミリの壺形の花冠で、先は5浅裂し、裂片は反り返り、花柄も同じ色をしている。果実は、直径3~4ミリの蒴果で上向きに付く。

 ところでヒメシャクナゲは、長い間、私にとって、なかなか見事な株を撮影できない種類のひとつだった。というのも基本的に高層湿原に生える丈の低い植物なので、木道に近い位置に生えている株にしかカメラを向けられない。その中から花付きがいい株を探そうとしても滅多にないのだ。
 初めて本種を見たのは30年ほど前のこと。長野県山ノ内町・志賀高原の田の原湿原でパラパラとしか咲いていない株を撮影。その後、あちこちで見ているが、いつまでたっても好条件株に遭遇できなかった。
 しかし2014年6月、別の植物探索目的で付近を訪れた帰路、ついでにまた田の原湿原を訪れてみたところ、ようやく好条件株に遭遇(以下の写真)。花が終わった花柄も目立つのでベストとはいえないが、花は多くて絵にはなる。
 さらに昨年(2017年)、苗場山で、もっと見事な株を見つけて喜んだのも束の間、望遠レンズを装着してファインダーを覗くと、なんと蜘蛛の巣がやたらと絡まっているではないか! 少々の蜘蛛の巣なら、あとでデータ上で消去も可能だが、とてもそんな裏技でなんとかなるような量ではない。木道からも距離があり、手をのばして蜘蛛の巣を取ることも不可能。むろん高層湿原上にドカドカと踏み込むことができるはずもなく、断念せざるを得なかった。くっそー、あのヒメシャクナゲに巣を張った蜘蛛め! よりによって花付きのいい株にやたらめったら巣を張りやがって! 一生恨んでやる~(怒)!!

 まあ、そんなこんなで、なかなか難しいわけよ(笑)。



田の原湿原で撮影したヒメシャクナゲ。パラパラとしか咲かないことも多いヒメシャクナゲとしては、花付きがかなりいい方である。


シャクナゲというよりもドウダンツツジのような壺形の花。長野県・栄村・苗場山(左)。若い果実。花と違って上向きに付く。群馬県片品村・尾瀬ヶ原(右)。


  
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