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1500億塩基対のゲノムをもつ
キヌガサソウ
ユリ科
Paris japonica
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  ユリ科ツクバネソウ属の多年草。属名Parisは、残念ながらフランスの首都・パリとは関係ない。本州中部地方以北の日本海側、山地帯から高山帯の湿った林内や草地に生える。日本固有種。高さ30〜80センチ。葉8〜11個が輪生し、その様子を昔、貴人に差し掛けた絹を張った傘・衣笠(絹傘)に見立てたともいわれる。6〜8月に直径6〜7センチの白い花をひとつ付ける。花弁の枚数も葉と同様に個体差がある。花は最盛期を過ぎると、徐々にくすんだ緑色を帯びてくる。特徴的な草姿をしており、しかも見間違う種類がほかにないので、同定はたやすい。

 2010年11月9日の朝日新聞には、本種に関する興味深い記事が載っていた。記事によると英王立キュー植物園が、長野県・白馬岳周辺で採集した本種の葉の細胞を調べたところ、最長のゲノム(核酸上の全遺伝情報)をもつことが判明したという。人間の場合約30億塩基対であるのに対して本種では約1500億塩基対だったそうだ。外見だけでは、人間の5倍もの遺伝情報が必要とも思えないが、そこにはどんな理由が隠されているのだろうか。この研究が報告される前まで最長とされていたのは、約1300億塩基対のゲノムをもつ肺魚の一種だったので、本種が記録を塗り替えたわけだが、その後、さらに約6700億塩基対のゲノムをもつアメーバの一種が発見され、現在では最長ではなくなっている。



北アルプス・栂池自然園に咲くキヌガサソウ。花も葉もまるで「風車」である。



同じく栂池自然園にて。



火打山・天狗の庭付近の灌木下に群生するキヌガサソウ。



キヌガサソウ花の奇形。花弁1個の先が緑化し、ほかの花弁よりも肥大していた。北アルプス・栂池自然園。



花期が過ぎたキヌガサソウ。花は緑色にくすんでくる。北アルプス・風吹大池。



  
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植物記