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高原に似合う愛らしい花
スズラン

ユリ科
Convallaria keiskei
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 高山や山地の草地に生えるユリ科スズラン属の多年草で、5〜6月頃に芳香のある白い小さな花を咲かせる。その姿は清楚でかわいらしく、この花が愛される理由だろう。しかし、その一方コンバラトキシンという有毒成分を含む有毒植物でもある。スズランを差した花瓶の水を誤って飲んで亡くなった人もいるくらい、その毒性は強いそうだ。
 スズランは高原などでよく見かけるが、群生地は意外と少なくて山梨県芦川村の「すずらんの森」や長野県富士見町・入笠湿原上部など、関東周辺では数えられるくらい。その数少ない群生地ではいづれも花が小さい分、絵にはなりにくい。
 ちなみに長野県の乗鞍高原には「鈴蘭」という地名がある。これはまさにスズランに因む名前で、昭和35年頃まで、あたりはスズランの大群生地だったといい、開花時期には花の香りがたちこめるほどだったらしい。これは以前、仕事で電話取材した乗鞍高原でペンションを経営されている方から教えてもらった情報だ。

 さて、花は径1センチの広鐘型で、先は6裂して反り返るが、このくるっと反り返っているところがスズランのチャームポイント。花の先端が反り返るのは、訪花昆虫が花の中に入りやすいようにするためとも思えるが、デザインという視点から見ても反り返らないよりも優れて見える。反り返る部分はほんの2ミリ程度だが、これがなければ、スズランの愛らしさは半減するだろう。工業製品でも機能を追求すると、時としてデザイン的にも魅力を増すことが見受けられるが、生物にも同じことがいえるのかもしれない。

 ところで花屋で見かけるスズランは、ヨーロッパ原産のドイツスズラン。日本産スズランと違って、葉の表面は粉白を帯び、花糸の基部が薄紫色になる上に、花も大きいなどの特徴があるので、見分けるのは容易だ。



花冠の6裂した先端がくるっと反り返っているのが、スズランがおしゃれなところだ。長野県佐久穂町・八千穂高原自然園にて。



若い液果。夏には直径6〜8ミリの液果となり、秋には赤く熟する。8月下旬、岡山県新見市・すずらんの園にて撮影(右)(左)。山梨県芦川村・すずらんの森。シラカンバ林内に群生地が広がり、確かに数は多いが「群生」としては絵になりにくい(右)



  
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植物記