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名は比叡山に由来する
エイザンスミレ

スミレ科
Viola eizanensis

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 里山や山地の林下に普通に見られるスミレのなかま。名前は比叡山に由来するが、本州北部から九州北部まで広く分布する日本固有種。このスミレの最もわかりやすい特徴は、細かく裂ける葉。深く3裂し、さらに細かく裂けることが多い。ただヒゴスミレのそれも似ているので注意が必要。違いは葉の基部にある。基部が3裂しているのは本種。一方5裂しているのはヒゴスミレだ。
 エイザンスミレは、春の里山をちょっとドライブしただけでも簡単に遭遇できるだろう。山を抜ける車道や林道沿いにも咲いていることも多い。花の色は淡紅紫色のものが最も多いが、白に近いものもたまに見かける。

 ところで、本種の変種にヒトツバエゾスミレ(var. simplicifolia)がある。葉の形態には変異があるが、葉が単葉となる違いがあり、主に関東地方北部に分布する。以前、群馬県桐生市の鳴神山に登った時も登山道沿いに点々と咲いていた。ヒトツバエゾスミレの白花品を鳴神山の名前をとってナルカミスミレ(f. leucantha)と呼ぶが、こちらは散々探したのにひとつも見つけられなかった。微妙な個体はあったのだが。少し時期が遅かったかもしれない。



東京都青梅市の林道沿いに咲いていたエイザンスミレ。この個体は花に紅色の筋が入るタイプだった。



一方、白に近い花をつけるタイプもある。東京都青梅市。


花のアップ。側弁の基部には毛があり、柱頭はカマキリの頭部のような形(左)。距と萼片の様子2例。中は神奈川県藤野町。右は埼玉県横瀬町にて。萼片の付属体には切れ込みがある。


エイザンスミレの葉は、深く3裂して切れ込んでいるだけで、ヒゴスミレのように基部まで完全に5裂しているわけではない。基部をよく見れば一目瞭然だ。ただ葉の形態には変異がある(左)。同定する上では別に役に立たないけど、これはエイザンスミレの花茎につく苞葉。スミレ類の花茎の中ほどにはこんなオマケのようなパーツがあるのだが、これってどんな意味があるのだろうか。もともと花を守る機能を果たしていた一部の葉が、進化の過程で退化して形だけ残ったものと想像するが…(中)。葉が単葉となった変種・ヒトツバエゾスミレ。群馬県・鳴神山(右)。



  
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植物記