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シソ科テンニンソウ属の2種
テンニンソウとミカエリソウ

シソ科
Leucosceptrum japonicum
Leucosceptrum stellipilum
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 天人草とは、なんとも風雅な名前であるが、語源ははっきりしていないという。開花にともない包葉が剥がれ落ちるのを天人が天花を撒くのにたとえたという説もあるそうだが、花もぽろりと葉の上に落ちていることが多いので、包葉じゃなくても花でも同じ説が通用するかもしれない。
 テンニンソウはシソ科テンニンソウ属の多年草で、北海道〜九州の山に生える。8〜10月ころに茎の頂きに淡黄色の花穂を咲かせる。花は唇形花で雄しべと雌しべが花冠の外に突き出す。なお、葉裏面の中脈に著しく開出毛が生えるものを品種・フジテンニンソウ(f.barbinerve)と呼び、富士山周辺に多いとされるが、あくまで「開出毛が著しく多い」ことが特徴であり、開出毛があるからといってフジテンニンソウとはいえないようである。実際、私が富山県・立山山麓の称名滝遊歩道沿いに群生していたテンニンソウを観察したところ、隣り合った株なのに葉裏面の中脈に開出毛があったりなかったりという違いがあった。帰宅して『神奈川県植物誌2001』で調べてみると、確かに「開出毛は伸長時期の成葉に多く出る傾向があり、その出現状態も個体差が大きい」とある。フジテンニンソウは開出毛が花穂直下の葉裏面中脈に多く、花穂の柄にも生えていることが同定のポイントのようだ。

 ところで同属のミカエリソウは、テンニンソウとよく似ているが淡紅色の花穂を出すので区別は容易。しかし名前には「ソウ」とあるが、実は茎が木質化する性質があり、こうした植物は半低木とか亜低木などといわれ、草と木の中間的な存在だ。両種は同属で似ているが、テンニンソウは草なのにミカエリソウはどちらかというと木なのである。
 名前は花が美しいので振り返って見ることから「見返草」。本州中部地方以西〜九州に分布。花期はテンニンソウと同じ。なお葉が大きくて丸いのは変種のオオマルバノテンニンソウ(var.tosaense)で、中国地方や四国、九州に分布している。ミカエリソウと同じく淡紅色の花穂を出す半低木である。母種はあくまでミカエリソウなのにオオマルバノミカエリソウではなく、オオマルバノテンニンソウと命名されている理由は不明だが、ややこしい話だ。



群生するテンニンソウ。富山県立山町・称名滝遊歩道。



愛媛県・石鎚山で見かけたミカエリソウ。


三ツ峠に群生するテンニンソウ。場所からするとフジテンニンソウではないかと思うが、葉の裏は未確認(左)。富山県・立山山麓で見かけたテンニンソウの葉裏面の中脈に生える開出毛。フジテンニンソウはもっと著しく生えるのだろうか。今度撮影できたら画像を追加したい(右)。



  
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