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工事跡などに一番乗りで繁殖する先駆植物
ヤナギラン

アカバナ科

Epilobium angustifolium
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 夏のスキー場でピンク色の絨毯を作っているのを見かけることが多い。工事や山火事の跡などにできた裸地に一番乗りで繁殖し、一気に大きな群生を作るのを得意としている。このような植物を先駆植物といい、例えば一時期各地で大繁殖して迷惑がられたセイタカアワダチソウもそのひとつ。先駆植物には乾燥に強く明るい環境を好むものが多く、またその群落は長続きしない。ヤナギランの場合も、ある年には見事な群生を見せていたのに、数年後に再度同じ場所を訪れてみると、跡形もなく消え失せていることがある。奥志賀高原、志賀高原、草津温泉、片品村、北八ヶ岳、美ヶ原、高峰高原、北八甲田・田代平などにはヤナギランの大きな群生地があるが、そのような理由から現在も含めて将来も見ることができるとは限らない。

 アカバナ科アカバナ属の多年草で、名前は葉が柳に、花がランに似ていることから「柳蘭」と命名された。日本の分布は北海道と本州中部地方以北だが、実はヨーロッパや北アメリカなど、北半球の温帯に広く分布し、外国の紀行番組や自然写真にも時々登場する。アラスカでは針葉樹林帯の山火事跡に繁殖することからFire weed(火の雑草)と呼ばれているという。

 花には同花受粉を避けるための雄性先熟という巧妙なしくみがあり、開花したのち、まず雄しべが先に熟して花粉を散らすが、その間雌しべは下に向いて花弁の間に隠れている。しかし雄しべがしおれると雌しべはまっすぐになり、花柱がのびて柱頭が4裂して受粉態勢を整える。つまり同じ花の花粉によって受粉が行われないようにするための知恵というわけ。ところが花序は下から上に向けて咲いていくので同花受粉は避けられても同じ株の隣り合う花との隣花受粉は避けられないという。これでは遺伝的には同花受粉と変わりはない。おそらく同花受粉の機会が減れば、隣花受粉は避けられないまでも、その分他家受粉の機会を増やすことにもつながるはずだ。ヤナギランはその可能性が少しでも高くなる雄性先熟という手段を選択したのだろう。ちなみに同花受粉と隣花受粉を合わせて、同じ個体の花粉を受粉することを自家受粉という。



奥志賀高原のスキー場に群生するヤナギラン。写真は2003年8月初旬に撮影したものだが、同じような群生が今後も楽しめるかどうかはわからない。



花は径3〜4センチで花弁は4個。花序を観察すると上の方の花は雄しべが元気で、下の方の花は雌しべが元気というのがわかる。雌しべが元気な花は、雌しべの柱頭が4つに割れて先が反り返ったり巻いたりしているが、一方雄しべはしおれている。



果実は長さ4〜8センチの刮ハで熟すと縦に4つに裂け、白い絹毛がついた種子を出す。長野県・志賀高原。



  
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