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増えすぎも問題化している
ニホンジカ

Cervus nippon
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 ニホンジカにはホンシュウジカやエゾシカ、ヤクシカ、ケラマジカなどの7亜種がある。シカは比較的よく目にする野生動物のひとつだろう。近年は、温暖化や天敵の不在などもあって、増加傾向にあり、日光や丹沢ではシカによる食害が深刻になっている。さらに数年前には、尾瀬ヶ原の植物を食べていることも確認され、これも大きな問題になっている。木の皮をはがして食べるため、シカが届く高さまできれいに丸裸にされた木も見られるほどで、そうなると木は生育できなくなり枯れてしまう。日光の小田代ヶ原では、湿原などを電気柵で囲んだり、木にネットを巻いたりして対策している。
 丹沢でもシカの増加による食害は大きな問題になっている。丹沢は私の住んでいる場所の裏山というくらい近い山なのに、もう何年も登っていない。しかしそれでもシカが増えているのではないかと感じることがある。昨年、伊勢原市の県道を取材に行くために深夜車を走らせていたところ、何とシカがいた。そこは東丹沢の山麓にあたる市街地だが、山からはある程度の距離があり、「えっ、こんなところにシカ?!」と思うような場所だった。

 本項でも人間にエサを期待する野生動物がいることは何度か触れたが、シカにもエリアや個体によっては、同様の行動を見せる個体も見られる。例えば丹沢では、登山者に平気で近づき、エサをねだる姿を見かける。もちろん、すべてのシカが人間慣れしているわけではなく、登山者が少ないエリアのシカが見せる人間に対する警戒心は相当なもの。だが本来は警戒心が強いのが野生動物として健全な姿なのであり、ただ「かわいいから」とか、「腹をすかせてかわいそうだから」などとエサを与えて警戒心を失わせるのは、表面的なことにしか目を向けていない無責任な行為なのである。結果的にそれが彼ら野生動物にとってプラスに働くことは絶対にない。




群馬県沼田市・栗原川林道で、私の車を警戒する親子のホンショウジカ。「ねぇ、ママ。あれ何〜?」と言ってそう。親シカの方は、なかなか目を離そうとはしなかった


ホンショウジカの♀。腹部が大きいところを見ると身重なのかもしれない。奈良県上北山村・大台ヶ原


丹沢・塔ノ岳山頂に現れたホンシュウジカの♂
(左)とエサをねだりに車道に現れたキュウシュウジカの♀。宮崎県えびの高原にて。念のためにいっておくが、この車の人は止まっただけでエサは与えなかった。偉い!(右)



日光のシカ被害と対策の一例。幹が食べられた木(左)。ネットを巻かれた木(中)と小田代ヶ原に張り巡らされた電気柵(右)。いずれもシカの食害を防ぐための対策だ





 
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