Nature
 
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山で出会った動物について話題や体験談を紹介します。ここでは昆虫類や両生類なども含めて動物全般を広く扱います。

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動物記
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大きな羽音をさせて飛んでくる
クマバチ
(キムネクマバチ)
Xylocopa appendiculata circumvolans
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 ブーンと大きな羽音をさせて飛んでくるハチ。ニホンミツバチなどと比べれば図体も大きく、近づいてくると思わず刺されないかと身構えてしまうが、実は人間を攻撃することはほとんどないという。じっくり観察してみると花をまわりながら吸蜜に忙しそう。見ようによっては、胸部にまとう黄色い毛もどこかおしゃれだ。
 昆虫採集に熱中していた幼稚園の頃、ありきたりのチョウの採集には飽きてしまって、でかいクマバチに羨望のまなざしを注いだことがある。だが、さすがに刺されるのが怖くて捕まえられない。そこで母に「クマバチを捕まえて〜」と頼んだところ、ある日、幼稚園から帰ると母がクマバチを捕獲してくれていた。まだブンブンいっている目の前のクマバチが怖くて、自分も怖いのだから母も怖かったろうと、変なことを頼んでしまったことを反省しながらも、うれしかった。でも結局、怖くて何もできず放してしまったように思う。今となっては遠い夏の日の思い出だ。
 普通、訪花昆虫は花の中に口吻を差し込んで蜜を吸う。この時に花粉が昆虫の身体に付着して運ばれる。訪花昆虫は蜜を得て、植物は花粉を運んでもらえるという相利共生(そうりきょうせい)が成立している。ところが、クマバチは筒の長い花では外側に穴を開けて盗蜜するので、花にとってみれば花粉を運んでくれないのに蜜だけ盗られ、しかも花に穴まで開けられ、迷惑千万なことだろう。このような盗蜜はほかにオオマルハナバチでも見られるらしいが、これが吸蜜方法のスタンダードにならないのは、花粉を運ばないと昆虫にとっても長い目で見ればマイナスだからなのだろう。そもそも穴を開ける力がないチョウやガには無理な話だろうけど。

 先日2007年5月15日の朝日新聞夕刊には「ダーウィンのラン」の話が載っていた。マダガスカル島で、長さ30センチもの距をもつ新種のランが見つかった時、同じ長さの口吻をもつ虫がいることをダーウィンが予測。のちに予測通り30センチの口吻をもつ蛾が発見されたという有名な話だ。こうした植物と訪花昆虫の見事なまでのマッチングはほかにもたくさんあるが、時にはクマバチのような禁じ手に出る虫も現れる。知りたいのは、こうした手段が種の生態として定着に至った過程だ。
 20年ほど前のことだが、ライアル・ワトソンが『生命潮流』で興味深いことを書いていた。正確には覚えていないが、例えばあるサルの群れで、それまで観察されなかった新しい行動をする個体が現れたとする。その行動が群れに広がり、ある一定の数に達すると、まったく接点のない別地域のサルの群れでも同じ行動が見られるようになるという、いわゆる「100匹目のサル現象」である。この説のその後の評価は知らないが、そんな仮説でも持ち出してこないと、ほかにも例えばカッコウの托卵のような特異な生態を獲得した過程が説明しにくいような気もするのだが、現在はどう考えられているのだろうか。生物学者に意見を聞いてみたいものだ。
 



わが家のショカッサイの花に穴を開けて盗蜜しているクマバチ。その犯行現場を押さえた証拠写真だ