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鏡に映った自分を理解できるか
動物の自己認識能力

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 昨日(2006年11月7日)の朝日新聞夕刊に「ゾウは鏡に写った自分を認識できるらしい」という記事が載っていて、大変関心をもって読んだ。その記事によるとゾウ3頭の顔右側に白い×印をつけたところ、うち1頭が飼育場の壁にかけられた鏡の前で、この×印を何度もさわる行動が観察されたという。何か異物を感じて触った可能性もあるので透明な塗料でも×印をつけてみたが、同様の行動は見られなかったそうだ。つまり、このゾウは鏡に映った自分の姿をほかのゾウではなく、自分であると認識できるらしいというのである。
 ところで大学生の時のことだ。夏休みで実家に帰省していた際、昼間、タヌキが何度も庭に現れたことがあった。エサを与えたことは一度もないが、エサほしさに平気で近づいてくる。ある時、どういう反応をするのか試してみたくなり、いきなりタヌキの前に鏡を出してみた。すると大慌てで数メートル先まで飛んで逃げた。そのタヌキにしてみれば、突然ほかのタヌキが目の前に現れたので驚いたのだろう。その驚きぶりは見ていておかしかったが、タヌキは鏡を見るのが初めてだから驚くのは当たり前。問題は飼育下で鏡に慣れさせたあと、鏡に映った自分の姿をゾウのように自分として認識できるか確認しなければ、タヌキには鏡による自己認識能力がないとはいえない。こうした能力は、これまで人間、サル、イルカにしかないとされていたそうだから、おそらくこの定説通りではないかと想像するが、今回のゾウのような結果にならないとも限らない。
 人間の場合も文明社会から隔絶された環境下で育てられたら鏡に映った自分を見ても、すぐには認識できないだろう。能力というのは、もともと存在しないのではなく、ただ眠っているだけという可能性もある。近年、霊長類の研究が進み、ある程度の単語を覚えて人間と意志の疎通ができるゴリラも現れているが、これも明らかに「能力が眠っていた」典型的な例といえる。つまり動物に知識を教え、訓練すれば意外と高い能力を持つ可能性が、ほかにもまだまだあるのではないか。人間同様に個体差も当然あるだろうが―。

 

 
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